第3話
特定の誰かであり、不特定の誰かに知られている自分という存在。そうして自らで様々な情報を暴露しているそこには、何種類かの人間がいる。
一種類目、ごく普通の人。
たいていの者達はこの部類に入る。至極当然なことだ。
この世界が変人ばかりで出来ていたら俺はここまで退屈はしないはずだから。
当たり障り無い毎日の出来事をネットの世界に拡散し、知り合いだけがそうだねと納得してくれればそれで十分。それほどネットに依存もしていなければ頼りもしていない。たとえ何があっても我関せず、日常は普通に流れていくタイプで人畜無害ともいえるだろう。
二種類目、いかに人の注目を集めるかを常に考えつづける奴。
こういう輩は表立っては共感された数字など気にしていないと言いながら、その実、誰よりももっともその数字を気にしている人間だ。
そして、注目を浴びていることが自慢で喜びでもある。そういう人物は電子の世界だけではなく、恐らく現実世界でも人の目を気にし続け、自分がどのように評価されているのかを探りたくて仕方が無い人間だろう。評価を気にし、共感と注目を得るためならどんなこともしてしまうのが連中だ。それは常識的に考えて一種類目の人間が「ありえない」と思うことも平気でやる。それは普通に生活している人間にとって迷惑この上なく、決して無害とはいえない。しかし、こういう連中の扱い方を間違えなければ、見ているだけである者が怪我をすることは無いだろう。
三種類目。モラルをことさら大切にする奴。
一見聞こえはいいが、それが本当に「正しいモラル」かどうかは自己判断で行っているのでたちが悪い。
世間一般的に見てたいした事柄でなくても、これは規約違反だ! 規則違反だ! と声を荒立て徹底的に相手を攻撃する。もちろん、この手の連中に対してもモラル違反だという奴らはいるが、彼らにとってはそれすらもモラル違反となるのだ。
なんとも厄介で有害的連中だ、自らの中の正義を振りかざしているから、ことさらたちが悪く、怪我をするつもりが無くても知らぬ間に怪我をしてしまい取り返しつかなくて死亡するなんてこともありえる。
四種類目、決して関わらないが全ての流れを見る奴。
つまりは傍観者だ。そして、俺の事でもある。
誰とも関わりを持とうとせず、誰かの目に留まることを極力避けて、存在自体が無いように潜みつつ、ただ自分以外それらの人間たちを見つめるのだ。この手の人間になれる奴は極少数だろう。同じように潜んでいるつもりでも見つかる奴は多い。長く続けていくうちに、どうしても発言したくなるだろうし、自分が興味のあること、または自分の話題が出てしまえば反応してしまうのが普通の人だからだ。
俺は決してこのスタンスを崩さない。関わりを大事にする奴が多いが、俺にとってそれは面倒極まりない行為。そして例え何処で自分のことをどう言われていようと今の俺には関係のないこと。好きにすればいいとしか思っていない。だったら「傍観者」である必要はないが、傍観し続けるのは、そういう人間たちを観察しているのは時間つぶしにはもってこいだからだ。俺の周りではつまらない日常が繰り返されているが、この場所は様々な情景が繰り広げられていて退屈することはない。
だから今日も当然、関わりの無い俺は関わりばかりの世界を覗く。
この現実で実際の関わりが殆どない、関わりばかりの世界はその需要性も有り、各社が競って同じようなシステムを作りだして幾つも存在する。その世界では現実では何一つ出来ない人間がスーパーマンのように何でも出来る「人間」になったり、一人がいくつもの「人間」になったりしていることもある。俺はその全てに目を通す。どんな揉め事が起ころうと、俺はただ見ているだけ。俺と同じように見ていただけだが見つかってしまった奴もいる。そんな奴の現実の友人は決まって、
「お前暇人だなぁ、そんなことしている時間があるのが羨ましいよ」
と言ってくる。
呆れと嫌味、奴は違うんだと言い訳していたが、そばで見ていた俺にとって、そんな言葉はもう聞き飽きた言葉だ。
幾度と無く親父に言われ、俺の耳は暇という言葉が存在していないかのように聞き取ることをしない。
だが、俺はその友人の意見は至極当然のことだと思っている。こんな事、確かに暇人であり時間がなければ出来ないこと。俺自身、時間つぶしの時しか使っていないのだから。
当たり前のことを言われているのに慌てたり腹を立てたりするほうがおかしい。俺はたぶん言われても何も感じないだろう。事実を言われ図星を指されたからといって怒り狂う馬鹿ではないし、そんな馬鹿でありたいとは思わないからだ。
しかし彼らは、
「どうしてそんなことしてんだよ。暇なら何かやればいいじゃないか」
と畳み掛けてくる。人の事、放っておけばいいと思うのだが、可哀想と思ってしまうらしい。
「何かやればいい」それは何かができるやつの言い分だ。そう言うならと「何をやればいいと思う? 」と問い返したところで返ってくるのは「そんなことは自分で考えろよ」という答え。
何もできない奴はその「何か」を探すことからはじめなければならない。そして、探し方も初め方もわからないのだ。
こちらの気持ちをわかってもらおうとも思わないし、わかってもらっているとも思っていない。だから、未だ俺の時間つぶしはそれぞれのサイトの傍観者であることだけだった。
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