9/28(月) 部田凛々子⑤

「は……どういうこと……」



 凛々姉の声が震える。



「あたし知ちゃんのこと、たくさん知ってる。同じ学校じゃなくても、クラスのこと、部活、学校行事だって調べてたから! 会長が選挙で落選したのはかわいそうだけど、そんなの誰のせいでもないよ。誰も悪くなかったんだよ!」


「お前……」



 あのときに固く固く閉ざしたはずの心の鍵は、いつの間にかもろく錆びついていたようで。ガシャリと錠前が落ちる音がした。



「ち、違う! チュン太があたしを裏切ったのよ! あたしの生徒会長の座はほぼ確定だった。なのにあいつはね、別の男を立候補させた。それで票を操作して、あたしの当選を阻止したのよ!」

「そんなこと、知ちゃんができるわけないじゃん!」

「でも実際そうだったの。人にも聞いたもの!!」

「誰から?」

「それは! っっ!?」



 凛々姉の口が開いたまま止まる。



「それは、学校中の、噂だったのよ……っく!」



 小さく唸ると、凛々姉の足がふらついた。横からいちごが腕を取って、体を支えた。



「不確かなこと言わないで! 知ちゃん! かいちょの勘違いを、ずっと黙って合わせてたんでしょ!?」



 音和が隣に来て、俺の手をぎゅっと握る。これほどにも信頼してくれているのは心強くて、ありがたいことだった。

 雨がガラスを叩いて真実を急かす。

 口の中がカラカラで、頭は全然冴えないけれど。

 俺は大切な音和の手を一気に振りほどいて、口を開いた。



「……ごめん、音和。凛々が言うのは事実なんだ。俺はんだよ」

「!!」



 凛々姉の視線が非難がましく突き刺さる。



「もう時効だろうから全部話すよ。凛々姉、改めて、本当にごめん……」

「うそ、なんで……」



 そしてずっと信頼してくれていた少女の顔からは、血の気が失せていく。見ているのが辛くて、つい顔を背けた。

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