第4部 お姫様に寵愛を

2017年 冬①

 “平均以上”じゃダメだった。

 常にトップにいなければ、誰も評価してくれない。


 だから勉強だけは誰よりもした。部屋に置いてある本はビジネス書や自己啓発本ばかり。

 体も、毎日浜で鍛錬していた。


 あたしは天才じゃないから、そうするほかなかった。


 間違えているはずがない。全てが必要だったこと。


 これらの下積みがあったからこそ、あたしは生徒会長に立候補する勇気が持てたんだから。




………………


…………


……




「じゃあ確かに拝受しますね。部田とりたさんのような優秀な人が生徒会長になってくれたら心強いわ。私の代よりも風紀がよくなるでしょうね」

「そんな、ありがとうございますっ」



 担任に出せばいいのに憧れの生徒会長にあいさつしたくて、直接生徒会室に生徒会長立候補の届けを持って来ていた。


 ゆずりは生徒会長はあたしの理想だ。

 ううん、あたしだけじゃない。先生も生徒もみんなが一目置き、先輩が生徒会長になってから、学校が穏やかになった。


 例えば掃除時間にポイント制度を取り入れたことで、校内だけでなく町の美化活動までも推進し、市長からも表彰されてたのが印象深い。

 他にも提案された新しい制度はどれも小さなものだけれど、生徒同士でのいざこざも減り、校内が穏やかになった。

 あたしも先輩みたいに人の役に立ちたい。自分の名前を、何か功績の爪痕を残したい。そんな希望に満ちていた。



ゆずりはの後任かー。うん、すごくいいね!」

「期待してるよー!」



 物珍しそうにしている生徒会執行部の先輩たちが、わっとあたしを囲む。



「でもまだ決まったわけじゃないんで……」

「えー、毎年立候補する人いないし。部田とりたちゃんで決まりでしょ」

「そ、そうなんですか?」

「杠だって推薦だったしね」

「うふふ。そうだね。ここ数年は生徒会長は推薦の流れだよね」

「うちやること細くて多いからさー。内申書の点数稼ぎにしても割に合わないっ!! 会長になると仕事量これ以上でしょ。あんたやっぱりすごいよゆずりは!」

「そんなことないよー」

「それに代々の会長が立派すぎて、ポジションが恐れ多いっていうか。他薦じゃないと無理めな空気だよね……。でも部田とりたちゃんは勉強も運動もトップクラスだって聞いてるし、非の打ち所がないよね!」



 やっぱり生徒会長ってすごいんだ……!

 ちなみに、会長以外のポジションはすぐに埋まってしまうらしい。



「そんなわけで、期待してるわね。頑張って」



 杠先輩の握手は、両手で包んでくれる、丁寧で温かい握手だった。



「はい、頑張ります! ありがとうございます!!」



 生徒会執行部のみなさんに一礼してあたしは部屋を出た。

 みんなの期待を受ける高揚感、こんなに気持ちいいんだ。やっぱり自分に合ってるって確信。

 よしっ、演説考えなきゃね。杠先輩にも相談してみよう! 久しぶりにわくわくしてきたーっ!


 中学校になったら絶対に、生徒会長になるって決めてた。その目標を、これから1カ月で叶えていく。

 今までの努力を思えば、1カ月なんてまばたきの一瞬のようなもの。

 肩に力を入れるものでもない。だってこれは、人生の通過点のひとつだ。

 あたしの輝ける将来のための、踏み台にすぎないのだから。

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