7/19(日) 小鳥遊知実⑤

 しかしすぐに親友の背中に顔をぶつけて立ち止まることになった。



「いや、止まるんかい!」



 抗議すると、いつになく神妙な面持ちで野中は辺りを見回した。



「なあ。俺、ここで遊んだことあるわ。ガキの頃」

「は?」

「じーちゃんちが近いんだよ」



 急に何なんだ?



「夏休みに連泊したときに、この砂浜で近所のガキと遊んだ年があるんだけど、結局何も言わずに実家帰ってさ。なんか数日落ち込んだんだよな」



 あれ? それってもしかして……。



「俺がこないだ話した怪談?」

「そう。状況似てね? なっちゃん、その幽霊とかけっこしなかった? 例えばあの岩ゴールにして」

「……した。つーか、まさにここなんだよ。俺が幽霊と会ってたの」



 指差すのはさっき野中が不時着していた岩場だった。近くにいたときはわからなかったけど、あの岩、見たことある。

 少しずつ、氷を溶かすようにして思い出が流れてくる。



「……道路走り回ったり、草取って薬作ったりした?」

「おーしたした!」



 野中が肯定するたびに、ばくばくという心臓の音が拡大していく。



「いや、でもなんで『カタちゃん』?」



 いちばんの疑問がそれなんだ。



「俺はそうやって呼ばれていた記憶はまったくないんだが、俺の名前を言ってみ」

「野中貴臣、だろ?」

「いいか? の、な、か、た……。かた」

「…………お前じゃん!!」

「俺じゃねーか、この腐れ縁!!」



 手を挙げてハイタッチする。



「いやまじか。まじかー野中だったかー!」



 おいおいおい! なんだよこの突然の再会は。



「ふふ。女なら運命感じたんだろうが、残念だったな」



 野中がニヤニヤと笑う。



「何言ってんだ、幽霊は最初っから男だっつの。それがお前で最高だわー!」



 まさかの急展開! 超スッキリ!! お前はコ◯ン君ですか!

 いつも以上にはしゃいで野中の後ろから抱きついた。

 そうやってじゃれ合いながら歩いていたけど、今度は野中の視線が前方で止まったことに気づいてそっと離れた。



「っていうか、詩織は誰としゃべってんだ」

「なにが?」



 視線の先は俺たちのパラソル。

 その下に葛西先輩がいて、隣に見知らぬひょろっとした男が座って話しかけていた。

 先輩は明らかに作り笑いで、どうやら知り合いではなさそうだ。



「ナンパかね」



 野中はあきれたような声で言った。



「ちょっと俺、行ってくる」



 せっかくこっちは気分が良かったのに。先輩が迷惑そうにしてるの悟れよ、なんだあいつ。

 腹の底からふつふつと怒りがわき上がってきていて、そろそろ沸騰するんじゃないでしょうか、というところだ。



「んじゃお供しますわよ」



 俺たちは自然に目配せをした。

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