5/21(木) 小鳥遊 知実①

 目が覚めると、知らないベッドで仰向けになっていた。


「……おお、これがかの有名な見知らぬ天井か」


 そうつぶやき、上半身に力を入れて起き上がる。腕を見ると点滴がぶっ刺さっていた。さて、一体どうがなにしたんだろうね??


「あ、知……。起きたのね、良かった……」


 パイプ椅子に座り、ベッドの足元に寄りかかるようにしてうつ伏せになっていた母親が身体を起こして目をこすった。


「身体、苦しかったりする?」

「いや、目覚めスッキリ」


 そういえば忘れてたけど、久しぶりに寝起きで頭痛がない。


「今って何時? これどうしたの?」

「えっと……21日の午後4時半ね。昨夜、知が倒れてから、穂積さんのところの病院に救急を出してもらったのよ」

「うっわー、12時間以上惰眠をむさぼっていたのか」


 かなりぐうたらと熟睡した。ぐうたらって「寝息(ぐう)+たらしめる」から来てるって音和に言ったら信じそうだな。今度言ってみよ。

 

「んー……、ちょっと先生を呼んでくるわね」


 母親は大きく伸びをしたあと、部屋を出て行った。


 ひとりになった病室をゆっくりと周りを見回す。

 白い大きめのベッドに、枕の近くの壁にはネームプレート。カードを入れるタイプのテレビ。テーブルの上も引き出しの中も見たが、なにもなかった。


 ……病院の個室か。

 迷惑をかけたあげくに個室なんて贅沢して、マジで申し訳ないな。

 カーテンからもれる光を眺めながら再び転んで目をつむった。昨晩の記憶は断片的にしか存在しなくて、それでさえも曖昧で、歯がゆい。


 数分後、様子を見に来た先生に検査を受けるように言われた。それに従う代わりに、母親にはカフェに戻ってもらうことにした。

 検査が終わったのは真っ暗になったころ。結果は明日の朝には出すそうだが、仕事の早さが異常すぎる。

 けど、そのときの俺はなんの疑いも持たず、「とりあえず検査はしたいと思ってたわけだし、わざわざ病院に来る手間はぶけてラッキー」なんて、再び病室で天井を眺めながら思っていた。

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