グッドバイ・ブンゴー、サマー・エンジン

作者 木古おうみ

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★★★ Excellent!!!

AIやプログラムを使って亡くなった人物の人格を再現する。サイバーパンク系の作品では良く見られる設定だ。脳の活動が電気信号によって営まれる以上、コンピューターが進歩すれば人間の精神ですら再現可能だ、というテクノロジーへの期待がそこにはある。本作でも亡くなった人物の人格を再現しようとするのだが、やり方はもうちょっとシンプルでクローン技術を使って、培養層の中で死者と同じ機能を持つ脳を育てようとする……うーんグロテスク。

そして本作で甦らせられるのが太宰治。言わずと知れた文豪である。未完で終わった彼の遺作『グッド・バイ』の続きを書かせようとするのが太宰復活の目論見であるのだが、この太宰、とにかく原稿を書こうとしない。それどころか自分の管理をする女性スタッフと心中未遂まで行う始末。

そんな脳だけとなった太宰と彼を担当することになった男性スタッフ(女性スタッフは太宰の心中に巻き込まれてしまうので)の物語。あの手この手で小説を書かせようとする男と決して手(?)を動かさない太宰のやりとりはコミカルで非常に楽しく、脳だけの太宰に振り回されてあれこれ愚痴ってばかりいる男の姿を見ているだけなのに、読んでいる内に人間・太宰治の魅力が伝わってくる内容に仕上がっている。


(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)

★★★ Excellent!!!

題材になっている文豪の生前を思えば、如何にも、確かにそのとおりだろうと、知的な刺激と面白みが感じられます。
そして文章が、実に格調高い美文!
それこそ、題材になっている文豪に勝るとも劣らないでしょう。
SF的な刺激と良くも悪くも人間的な味わいの入り混じった、文学としての完成度が高い名作短編です。

★★★ Excellent!!!

 とにかく書き出しがすばらしい。「無機質な培養槽」と「ヘミングウェイ」は普通交わることはないでしょう。
 異質と異質とが出会うときにドラマは、はじまると思うのですが、そういう意味で見事な書き出しです。

 文体にはクセがあるので読みにくいと感じる人もいるかもしれませんが、流し読みせず立ち止まって読んでいくことを心がければ、目の前に『絵』が浮かんできますよ。太宰が好きであろうとなかろうと一読の価値ありです。