第329話 親としてプロとして


「その顔なにか心当たりがあるらしいな。そいつの名は【異次元の神災者】かつて【神眼の神災】と呼ばれていた者」


 その言葉に思わず鳥肌が立ってしまった。

 娘達から先日聞いた話しでは、自分達と美紀が束になってもその暴走を止められないと言っていたが、それは娘達が私の興味をそそるように事実を改変したのではないかと思っていた。だってそんな者がもしいたら――その者はゲームの神様に愛された者としか言いようがない。そんな者が娘達と同世代にいる。その事実は娘達の将来を考えた時に最大の壁にしかならない。

 だけど――その考えを否定するかのように男は続ける。


「そいつがハイテンションな時に微笑むと決まって、誰も想像ができない何かが起こるんだ。そう勝ち負けを超越した何かをそいつは求めているかのように微笑み、歯向かう者にとっては悪魔の微笑みを見せるんだ」


「確かにゲームはそう。楽しむもの。だから私は娘達に自由を与えている、だけど――」


 女の言葉を先読みしたように、男は。


「だけどプロとして戦うなら違う、か?」


「……そう」


「だと思った。だけどこれだけは忘れるな。【異次元の神災者】の名は本物。それは事実であり、嘘でもある。ならまた来るよ、じゃあな」


 そう言って男は夜の公園を後にした。


 一人木のベンチに腰を下ろしたまま残った女はスマートフォンを手に取り、男そして娘達が言っていた初心者プレイヤーについて調べてみる。

 皆その者を過大評価し過ぎではないか?

 確かにゲームは楽しむ物。それを否定するつもりはない。

 だけどゲームは勝負の世界で繋がっている。

 勝負である以上そこに勝敗は必ずしも有り、真剣そのもの。

 そもそも楽しむ以前に勝たなくては面白くもなんともない。

 だからこそ結局のところ勝たなければ楽しくも面白くもないのだ。

 なによりそこに生活が掛かっているのなら楽しむより、まずはこの現実世界で生きる為に必死に勝てるように努力しなければならない。努力して楽しかったから負けてもいい、そんな事を思う余裕はない。結果を残し続けなければ、家族を路頭に迷わせてしまう可能性だってある。それにいつ自分が得意とするゲームが世界から消えるかだってわからない。そうなると稼げる時に稼ぐしかなくなる。だからこそ、純粋に勝ち負けを楽しむ者が本当はそれをしたくても出来ない領域(プロ)や将来それを目指す者達と同じ所にいることが受け入れがたい。


 そんな事を思いつつ、スマートフォンの画面をスクロールしていく。

 すると、そこには――。


「……なにこれ?」


 思わず、そう言わずにはいられなかった。


 まず目に入ってきた内容は第四回イベントで確認された【異次元の神災者】についての最新情報だった。


 内容は進化について。

 成長など生易しい物ではなく、多くの者がその者の成長を進化と呼んでいると内容である。


 男がさっき言った通り、


 火が効かないなら、炎


 爆発が効かないなら、超爆発


 と今自分が持てる武器を最大限に発揮する一人のプレイヤーがいた。

 サイトにある文章を読んでいるうちに釣られ気付いた時には動画の再生ボタンを指で押していた。



「これこそ名付けて俺様新全力シリーズ超新星爆発だぁー!」



 突然聞こえてきた声に、思わず驚くもその光景を最後まで黙って見る。

 それからも他の動画を再生していく。

 そこに映る純粋無垢な微笑みは確かに楽しそうだった。

 だけどその時に敵が見せる表情はその逆のように感じられた。


 ここで疑問が一つ。

 なぜ? 皆最後は笑顔になる?

 楽しそうに後の祭り話しができる?


 勝ったならわかる。

 だけど提示板等を見ていても多くの者は彼の行いを認めている。

 何故だと?


 なぜ彼は多くの者を笑顔にできるのか?


 そんな疑問が生まれた。


 そしてもう一つ疑問が。

 先日電話越しに聞いた娘二人が片想い中だと言う青年と特徴が妙に一致する、と。


 ならば、親としてプロとして何を確認しなければならないか――。


 答えは一つだった。


 自分の眼で確かめるしかないと――。


 娘に害がないものか、将来自分達の敵にならないものなのかを。



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