第321話 怒りと嫉妬を原動力に変えろ【神眼の神災】
「それにしても、想像以上に息苦しいわね……」
気付けば口で息をする美紀。
瑠香と七瀬も同じらしく、息が苦しそうである。
これだけの攻撃ラッシュ無理もないか、と思う。
それに疲れているのか煤煙も視界にチラホラと見えるし、風に乗って黒い煙も見えるし、空気が熱せられているのか視界がぼやける時もあるしで、どうやらこれは本格的に疲れているのかもしれない。
「……ん?」
美紀の集中力を奪うようなこの熱気は一体どこから? と思い、視野を広くしてみると小百合の防御手段の一つである大木を次から次へと焼き払っている者がいた。それによく見てみれば燃え盛る炎は美紀達を中心に大きな円状に燃えているではないか。
まぁ、今は何にしても攻撃あるのみと再度集中する美紀。
それから瑠香とアイコンタクトでタイミングを合わせて、小百合を挟撃する。
「スキル『連撃』!」
小百合の反応が一瞬遅れる。
「スキル『ペインムーブ』!」
遂に美紀と瑠香の鋭い突きが小百合にしっかりとしたダメージを与える。
相手がこちらの狙いに疑問を持ち意識がこちらから途切れた僅かな隙を美紀と瑠香は見逃さなかった。
だけど、スキルによる攻撃が終わった後のタイムラグは必ず存在するのも事実。
小百合の弓が再び燃え、美紀と瑠香に狙いが定められる。
攻撃に意識を集中させた事で、再び視野が狭まる。
それは更なる致命傷となっていく。
苦戦を強(し)いられる者達に追い打ちをかけるように小百合が今度は上空に出現した魔法陣へと矢を放つ。矢は空中に出現した魔法陣を通り、矢の雨となって四人に襲い掛かる。
「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
身体に次々と刺さっていく矢がHPを奪っていく。一撃一撃に破壊力はないがそれでもこのまま受け続ければ蓮見のHPゲージはいずれゼロになる。小百合の狙いはあくまで蓮見。その為一番多くの矢が飛んできたのだ。そこに距離は関係なく、遠距離攻撃を得意とした弓使いとしての理想的な戦い方でもあった。
「スキル『回復魔法(ヒール)Ⅱ!』
美紀が低空姿勢のままダメージを受けながらもフィールドを駆け抜け蓮見にヒールを使う。が、その為、美紀は美紀でダメージを諸に喰らい始めた。しばらくして二人の感覚で矢の数が二百を過ぎた頃に攻撃は止んだ。
「だ、大丈夫?」
「あ、あぁ……スマン」
「別に……く、紅が無事なら……ぜ、全然……か、かまわ……ない……わよ」
息が苦しいのかまともに話す事が出来ない美紀。
自分だけでなく、蓮見や瑠香のフォローまでさり気なくしていた代償がここにきてやってきたらしい。
そんな美紀を見て高鳴る蓮見の鼓動。
ここまで息苦しそうなのに、どこかこの状況を楽しんでいるかのように微笑んでいる美紀に蓮見の魂が感化させられた。
「お、お姉ちゃん……ありがとう」
「う、うん」
視線を遠くに向ければ、今までのハイペースに疲れが隠し切れていない姉妹の姿があった。
それを見た、蓮見は思う。
ここで男を見せたら、楽しいだけじゃなくて、カッコイイのではないか?
と。つまるところモテるのではないか?
と言う事である。
もっと言えば、俺も出来るのではないか?
と言う事でもある。
何が? と言いたいところではあるが、それは今正に蓮見の視界の奥の方で行われている行為である。
くっ、瑠香の奴羨ましい過ぎる。
七瀬さんに身体を寄せ支えて貰うだけでなく、介護される振りして頭を胸に押し付けれるなんて……ズルいぞ!!!
俺も七瀬さんの胸の谷間に頭を……押し付けたいのに!!!
瑠香と七瀬の何気ない美紀への行動や瑠香の何気ない行動が蓮見の性を刺激した為に、第四回イベント中にて蓮見の頭はいつも以上に……お花畑になっていたことは今さら語る必要もないだろう。なぜならこんなにも神災を起こし続けれていたのだから。勘のいい人ならその違和感に気付くからだ。
故に理性と言う名の鎖は最早なんの意味もなさない。
――そして。いや、ついにと言うべきか。
ようやく蓮見の推敲なる作戦の下準備が全て終わりを迎えた。
嫉妬と怒りを全て原動力に変えて、蓮見の目が見開かれる。
その目は、全てを独占したい男子高校生として純粋な願望に支配されていた。
手に入らないのなら、全てを目の前から消してしまえば解決すると言いたげな目に美紀が少し離れた所にいるガス欠寸前の瑠香と七瀬に後退するように身振りで合図を出す。
「紅くーん。インフェルノの準備できたわよー♪」
その声は既報か悲報か。
その楽しそうな声は天使の声か悪魔の声か。
燃え盛る炎の中から手を振り、蓮見の方へとやってきたエリカを見た蓮見の表情から笑みがこぼれる。
「ありがとうございます! ではエリカさん後はタイミング合わせてお願いしますね」
「はーい♪」
「里美? 後は俺とエリカさんの共同作業にラスト一分任せてくれないか?」
「……わかった」
共同作業と言う言葉に一人は更にルンルン気分になり、一人は少し不機嫌になったが、言った当の本人は全然気付いていなかった。
そして蓮見は七瀬にあるメッセージ送る。
『障壁で良いので空に沢山展開して欲しいです。出来れば炎が行き場を失うように密閉空間になるように。タイミングは視界不良になったタイミングでお願いします』
と。これに何の意味があるかはさておき。
こうして、
によるラスト一分が始まった。
直後、七瀬から『了解』とメッセージがきた。
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