第306話 瑠香の恋心と迷い
その後、蓮見達は全員(敵が)灰となった地上に一旦降り集まる。
「とうとうやっちゃった……」
まだ現状を正しく理解できていない美紀が放心状態になりながら呟く。
それを他所にエリカに手招きされた蓮見は呼ばれた場所まで行く。
「とりあえず使ったアイテム全部あげるからこれでしばらく頑張ってね」
「はい! ありがとうございます」
「うん。全然気にしなくていいから、これからどんどん頑張ってね」
最早、動く弾薬庫と化したエリカが蓮見のアイテムツリーを見ながら可能な限りアイテムを渡していく。
「エリカさん?」
「どうしたのルナそんな顔して」
「なんでさっきあんなにアホみたいに爆弾使ってまだあるんですか? 明らかに所持制限超えてますよね?」
「ん? それがどうしたの?」
小首を傾げるエリカ。
別に悪い事をしているとは一ミリも思っていない。
その為か瑠香の言葉の意味がいまいちよくわからないでいるのだ。
「いや……アンタ何をしたのよ?」
ここで放心状態から戻って来た美紀がエリカの元に来る。
「何言ってるの?」
「だからなんで所持制限超えてアイテム持ってるのか! って話よ」
「そんなの決まってるじゃない。現地調合してるからに決まってるでしょ?」
「…………あーなるほど」
ようやく納得できた瑠香が頷く。
「「……え?」」
だが美紀と七瀬はお互いの顔を見合わせて戸惑う。
「「つまり……原材料が尽きるまでこの悲劇は繰り返されるの?」」
戸惑う理由も嫌な予感もドンピシャの二人。
七瀬は七瀬でどうせアイテムやスキルの残数の底が尽きればそれで終わりなのだからと甘い考えを内心持っていたがその考えこそが誤りだと気付いた。
美紀は美紀でこれがまだまだ続くのかと思うと、敵に同情しかない。
「原材料って……本当に採算度外視なのね」
「それなのに私達からはゴールドを取るエリカさん」
「容赦ないですね……」
美紀達の言葉には反応することを止めたエリカはアイテム調合に必要な原材料と機材をアイテムツリーから出して手慣れた手つきで手榴弾、小型爆弾、大型爆弾、聖水、……を生成し蓮見に渡した分のアイテム補充を始めた。
これは生産職に許された抜け穴みたいなものだ。生産職は戦闘職のプレイヤーに比べると戦闘は苦手なプレイヤーが殆どの為、運営が生産職でも楽しめるようにと敢えてアイテム調合類は規制をかけなかった。そのことにいち早く気付いたエリカは蓮見のバックアップを完璧にするためにお店にある資材を可能な限りイベントに持ち込んだ。戦闘職のプレイヤーは基本的に調合するための機材を持っていない為、チームに生産職が居る所はしっかりと協力さえすれば有利に事を運ぶこともできる。
「へぇー、そうやってアイテムって作るのか」
物珍しい光景に蓮見の瞳がキラキラとする。
「凄いでしょ?」
「はい!」
「えへへ~紅君に褒められちゃった」
上機嫌なエリカの声を聴いた美紀達の機嫌が少し悪くなる。
確かにエリカを誉めたい蓮見の気持ちはわかる。
だけどエリカにだけストレートに褒めるのは嫉妬の対象なのだ。
「こら! デレデレしない!」
「そうよ! 異性を見つめるのは相手に失礼よ!」
美紀と七瀬が蓮見の両サイドに来ては腕を掴み、強引にエリカから引き離す。
「あぁー待ってよ。二人共私の紅君持っていかないでよ~」
慌てて手を伸ばし蓮見を捕まえようとするが、瑠香に止められてしまうエリカ。
「イチャイチャはダメです」
「むぅ~」
頬っぺたを膨らませて抗議するエリカ。
だけど瑠香が首を横に振り、「だめです」と言って否定された。
今はやるべき事をやると渋々納得し手だけを動かしていく。
「そもそもの話し……エリカさんってなんでそんなに紅さんにゾッコンなんですか?」
「好きだからに決まってるじゃない」
「好意を表に出して恥ずかしいとかないんですか?」
「あるわよ? でも恥ずかしいからって何もせずに好きな人が他の人と結ばれたら後悔しか残らないじゃない。それなら恥ずかしくてもアタックするのが一途な女だと私は思っているのよ。だから最後まで諦めないし、手も退かない。出来る事ならどんな些細な事でもアプローチをしていく。これからもずっとね」
「ずっと……」
「そう、ずっとよ。理由はどうあれ一生で一度しかない初恋だから」
「ならエリカさんの初恋相手って……」
すると恥ずかしいのか、急にエリカの頬が真っ赤になった。
そのまま少し遠くに連れて行かれた蓮見を見つめながら「蓮見君」と小声で言った。
その姿は初恋の女の子そのもの。
初々しい気持ちを見せるエリカに瑠香の胸が痛くなった。
『私勝てるのかな……』
少し弱きになる瑠香。
だけどエリカの言う通りまだ誰の物にもなっていない今ならまだチャンスがある、そう思った。
それから二人の間に会話はなく、ただ時間だけが過ぎていった。
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