第297話 手に入れたルールブレイカーと終わった下準備
五人が合流しイベント専用MAPの中心地に向かって歩いて行く。
戦闘は美紀と瑠香が最前線で七瀬が後衛を基本として戦う事になっている。
そして蓮見とエリカは必要に応じて全員のフォローをすると一応決まっているのだが、蓮見の頭の中は今お花畑状態になっておりルールブレイカーをどうやって発動するかを考えていた。
「うーん、どうしよ……」
さっき一瞬空いた間の時に感じた美紀の無言の圧に委縮してしまった蓮見。
男らしくあの場ではっきりと言うべきだった。
『俺午前中は約束護りながら頑張ったから午後はせめて自由にさせて……』
と。だけど諸事情により言えなかった。
かと言って諦めたわけではない。
「流石に逆らうのは怖いし……」
唯一と言っても過言ではない、ゲーム内最強の【神眼の神災】抑制装置こと美紀。
その美紀をどうにかして納得させたい蓮見。
そもそも蓮見の頭の中がお花畑状態になっているのにはちゃんとした理由がある。
第294話での休憩時間の事を思い出して欲しい。
蓮見の煩悩を刺激する出来事があったことを。
そう女の子の胸の感触が若い本能を必要以上に刺激してしまったのだ。
そんな事からその時に、ふとっ、思い立ったアレをしたいのだ。
「紅?」
七瀬が後ろを振り返り、名前を呼ぶ。
「はい」
「どうしたの? そんなに難しい顔して」
「ミズナさん……話し聞いてくれますか?」
「…………うん、いいよ」
一瞬なんて返事をするか悩んだ七瀬は蓮見の歩幅に合わせて、前を歩く三人に悟られないようにして小声で返事をした。
それから蓮見は七瀬に簡潔に今考えている事を話し始める。
「俺午前中頑張ったじゃないですか」
「そうだね」
「で、ですね。俺午後コレだ!と思った事が一つあるんですよ」
「具体的には?」
「第一次攻撃隊です」
その言葉に七瀬の表情が曇り、小首を傾ける。
コイツは何を言っている? そんな顔をされた蓮見も鏡のように首を傾ける。
「………………はい?」
「……え?」
「……ごめん。意味がわからない」
「……マジですか?」
「……うん」
「……泣いていいですか?」
「だめ」
それから訪れた急な沈黙。
二人の視線が交差するも中々お互いに意思疎通が出来ない。
「スキル『爆焔:chaos fire rain』を俺が合図したタイミングで俺のスキルを対象に使って欲しいんです!」
「……絶対に嫌だけど?」
「なんでですか!」
「なんでって前科があり過ぎるからよ!」
「……俺……犯罪になんか……まだ手を染めてません!」
こうなったらまずは事前準備だけでも終わらせることにした蓮見。
ルールブレイカーはとりあえずその時になって考える方針にする。
「……それは……そうだけど……リアルではね」
「………………」
七瀬をジーと見つめる蓮見。
その目はウルウルとしている。
「……ぅ!!!」
「…………」
「あーもう……わかったわよ……はぁ~」
思わずため息をつく七瀬。
「やったー!!!」
両手をあげて大喜びの蓮見。
「ただし一つ条件がある」
「なんでしょう?」
「あ、頭撫でて欲しい……」
口をもごもごしながら身体を近づけてくる七瀬。
よく見れば頬が少し熱を帯びている。
いつも自分だけ置いてけぼりを感じていた七瀬はほんの少しだけ自分からアピールして見る事にしたのだ。七瀬も美紀と同じで理由がないと素直に自分の気持ちを中々伝えられないタイプ。
「撫でてくれたら……いいよ。わ、わ……たしにも……ルナにするみたいに優しくしてよ……。私だって一人の……ッ!?」
珍しく口ごもる七瀬の頭を無言で撫で始める蓮見。
蓮見からしたらいつもお姉ちゃんしてる七瀬もたまには誰かに甘えたいのかな? ぐらいの感覚なわけだが、いつも助けてくれるし、支えてくれる七瀬がそれを望むなら別に何もなくてもする。それで少しでも本人が楽になれるならいつだって喜んで。だって蓮見自身本心でいつも仲良くしてくれる皆の幸せを願っているから。
だけどそれは恥ずかしいので無言で撫でる事にしたのだ。
だってこれで照れて緊張しているのがバレたら恥ずかしいから。
それにそれをネタに、男らしくない、男ならビシッとしなさい、とか冗談でも言われたら豆腐メンタルの蓮見には大ダメージなのである。なにが? ってそれは男としてカッコよく見られたいという蓮見の願望の塊。
「ありがとう……くれない」
「いえ……俺でよければいつでも」
「ならもう一ついい?」
「はい」
「ずっと前に私にも優しくするって約束したけど全然してくれなかった。ずっと密かに期待して待ってたのに……酷いと思った。だからこれからはルナや里美と同じように私にもたまには何かすること。 いい? わかった?」
その言葉に思わず「あっ……」と言葉が漏れた蓮見は。
「すみませんでした。忘れてました」
と、頭を下げて謝る。
「ふふっ、素直で宜しい。なら約束ね?」
「はい……今度は忘れないようにします」
「わかった。ならいいよ、スキル使ってあげる。里美には……仕方ないから私から上手く言ってあげるから」
「ありがとうございます。それとミズナさん?」
「なーに?」
「これからもよろしくお願いします。俺まだまだ未熟者なんでこれからもずっと側にいて欲しいです」
「いいよ。ならお互いの事もっとよく知っていく為にさ――いや何でもない。これからもずっと側にいてあげるから頑張ってね、紅」
ほんの少し足りなかった勇気。
だけどこれも恋の形。
それでも心が満たされた七瀬の表情からは笑みがこぼれる。
「はい、ありがとうございます」
その時だった、前方から足音が聞こえ始めた。
それも一つや二つではない。
そう思った五人はアイコンタクトで素早く意思疎通を行い即座に戦闘態勢に入る。
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