第287話 『演舞の煙山』の支配者


 知らぬが仏。

 とまでは行かないが、自由気ままな姿を見せる事で再び足止めを無意識に成功させた蓮見は『演舞の煙山』の頂上へと続く崖路を進んでいく。


 鼻歌を歌っているのは調子がいいから。


 徐々に足取りが軽くなっていくのは、足の痺れが消えていくから。


 周りから見たら何一つ理解できない行動の連発でありながら気付けば『演舞の煙山』に進んできたプレイヤー達の中ではTOP3に入るぐらいにはしっかりとポイントも稼いでいる。


 現在一位は綾香、二位は葉子、三位は紅。


 だがポイント差は僅差と接戦とも呼べる状態でもあった。

 ここで視野を広くして、全体で見ると、蓮見だけが少し劣る。

 それでもTOP10のスイレンに続くなど、その成績はかなり良好とも言える。


 蓮見自身はそんな事をまったく気にしてはいない。

 今はこの状況を楽しむことに精一杯かつ忘れている為、これが目に見えないプレッシャーになるようなこともなかった。


「へへっ♪ 今回はなんだかんだここまで俺様の独走フルバーストだな」


 頭のネジが緩み、脳がドーパミンを過剰に出し、蓮見の身体を刺激する。


「頂上までもう一息」


 ニヤリ。と微笑む蓮見。

 その時、


 キュォォォォン!!!


 甲高い雄たけびが聞こえてきた。

 蓮見が上空へと目を向けると、全身をオレンジ色の炎で燃えたなにかが天から舞い降りてくる途中だった。

 あまりの美しく燃える何かに目を奪われ、つい足を止めてしまう。


「すげぇ……カッコイイ……」


 キラキラする蓮見の目。

 それは小さい子供が親にずっと欲しかったゲーム機とゲームを一緒に買ってもらった時のように純粋で無垢な瞳。

 口をポカーンと開けて見上げる物がしばらくして『演舞の煙山』の頂上でプレイヤー達を待ち構えるレイドボスだと頭が認識する。


「なるほど……あれが今回のボス」


 ビビったりすることはない。

 なぜなら【深紅の美】ギルドには逆立ちしても勝てない三人の美女(トッププレイヤー)がいるのだ。

 そんな三人から日々定期的に拒否権のない修行をつけてもらっている以上、こんな所でオドオドしていては修行量が増量してしまう。

 なにより、午前の部が終わると同時に美紀達に鼻で笑われ呆れられたらもっと困るのだ。ならばやる事は一つしかないだろう。


「ちょうどいいや。俺様が目立つためにも綾香さん達が追いついてくる前に一回は俺一人で頑張って倒す!!!」


 気合い充分。

 蓮見の軽い足に力が入り、力強い一歩へと変わる。


「おっ、ここでMP回復ポイントってわけか」


 頂上へと近づくと運営がレイドボス戦の前に用意した雑魚戦が始まる。

 ここでプレイヤーはモンスターを倒してMPを回復したりするのだが、蓮見の活性化した脳はここである事を閃く。


 本来は喰らうはずのないダメージが蓮見のHPゲージを徐々に削っていく。

 HPゲージが減ると同時にMPゲージが回復。


 自ら攻撃を当てるだけ、いや蓮見の場合歌を歌うだけでMPを回復できる。

 そこにアイテムはいらない。

 なのに攻撃を受ける理由。


 五割→三割→一割


 減っていくHPゲージ(緑色のゲージ)に意識を集中する。

 そこでギリギリまでゼロに近づけて、HPゲージ調整を終了と同時にモンスターを一掃する蓮見。


 その姿は……。


 神の眼を持ち、全身に水色のオーラを纏っている。

 それと併用で火事場スキルの効果を可能な限り自発的に最大火力で発動させていたりと多くのプレイヤーが警戒する【神眼の神災】。

 通称神災モードの蓮見である。


 そして『演舞の煙山』の支配者ゴッドフェニックスの聖地に神災モードの【神眼の神災】が足を踏み入れる。

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