第257話 鎮火できないのなら


 クエストを受託した五人はすぐに転移魔法陣に乗せられて特別フィールドへと飛ばされた。そこは十畳程度の部屋で隅にはリタイヤ用の強制帰還用の魔法陣が一つと出口となる通路が一つだけあった。

 敵である麒麟――キリンはこの部屋に入ってくることはなく、この部屋の中にいるプレイヤーには攻撃できず気配すら察知できないようになっている。

 これはクエスト受注と同時に転移途中に説明書きされた物を全員が見ているので把握している。

 勝利条件はAランクなので撃退(HPゲージを残り三割まで削る)でOK。

 敗北条件はプレイヤー全員の敗北。

 一度倒されたプレイヤーはこの待機部屋に強制送還され、そこで仲間の行方を見守る事が出来る。勿論個々で途中リタイアは可能だがその場合、もしチームが勝った場合も報酬は受け取れない。逆に勝った場合はもう一度戦闘フィールド――特別コロシアムに行くことができ、そこで勝ち残った仲間と一緒にアイテムを受け取りギルドへと戻ることが出来る。

 大まかな概要はこんな感じだが、五人は待機部屋で取り付けれられたコロシアムを映した専用の映像を見て驚いていた。


「キリンって私達の背丈ぐらいしかないぐらいの小さいのね」


「その割にはピョンピョンすばしっこく跳ねて移動しているわね。たまに歩いているけど……」


「あの白い角綺麗ね……欲しいわ」


「エリカさん今は素材の話しをしている場合じゃありません。なによりあの一本角がキリンの象徴みたいな感じなことからかなり耐久値……いや攻撃力ありそうなので気を付けてくださいね」


「心配してくれるの? ありがとう、ルナ」


「ってか身体が光沢のある黒って斬新ね」


「そうね……」


「てか本当に白と黒だけど何で紅知ってたの?」


「なんでってキリンって白黒……あっ、それはパンダ……か。キリンは黄色と黒だな。あの時、実は俺の心は生まれた時から冬のままなんだなって考え事してたから……すまん、さっき適当に返事した事をまずは謝る。皆さん本当にすみませんでした」


 腰から曲げて、頭を下げて四人に謝る蓮見。

 それを見た四人はホッとする。

 ――良かった、勘違いだった。

 そして。

 ――春……なるほど、つまり蓮見は彼女が欲しい年頃なのか。

 と思った。

 だけどまずは目先の事が優先だと判断し七瀬がゆっくりと頭をあげる蓮見の近くに行き、耳元で囁く。


「お姉さんは生き生きしてて可愛いとか言ってくれたり女の子扱いをたまにしてくれる男性と付き合いたい願望があるんだけど、今のくれ……蓮見は私の前じゃなよなよしてるよね? 本気見せてくれたらお姉さんドキドキしちゃうかも……そしたら頬っぺにちゅーぐらいだったら無意識にまたしちゃうかも……なんなら触らわせてあげるかもよ? 小さくても柔らかいものを……ってね」


 蓮見にしか聞こえない声。

 だけど唐突だったために、その言葉は残念ながら全部蓮見の頭に入らなかった。

 それでも蓮見の脳が正しく理解する。

 これは大チャンスだ!!!

 そう思った時にはさっき落ち込んだ気持ちが何処かに行き、身体の芯がメラメラと熱を持ち始めていた。


「ミズナさん……」


「私女子高だから、男友達かなり少ないの」


 ニヤリと微笑み呟いた七瀬。

 それからクルっと身体を回転させながら元の場所に戻っていく。


「お姉ちゃん?」


「なんでもないよ。ただ本気でしないの? って囁いてみただけ」


「そっかぁ……の割にはメラメラ燃え始めてる気が……」


「良し! なら鎮火できないのならもう行くしかないわ! って事で里美行きましょう!」


「えっ……うん。そうね……今度からは制御可能範囲でお願いね。でもまぁ気合いを入れ直して全員本気で行くわよ!!!」


「「「「おぉーーーーー!!!!」」」」


 蓮見と美紀を先頭にして五人が通路へと歩いて行く。

 そしてコロシアム内に一歩足を踏み入れたと同時に戦闘開始となった。



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