第255話 痴話喧嘩


 ――翌日。


 五人がギルドホームに集まっていた。

 そこで朝から痴話喧嘩へと発展した二人を蓮見、七瀬、瑠香が遠目に見守る。


「一体朝から何があったの?」


「さぁ?」


「まぁそのうち収まるでしょ。大体想像もつくし」


 七瀬は聞こえてくる会話から大方予測し、チラッと美紀とエリカを見て瑠香が淹れてくれた紅茶を口に含む。


「それにしても朝から元気ですね」


 瑠香もチラッと二人を見て紅茶に口をつける。


「そもそもお二人共紅さんが断らない前提になってる……」


 七瀬と瑠香は好きな人とこうして何気ない時間を楽しめればそれで充分なので基本的に言い合いに発展することはあまりない。


 蓮見は当事者でありながら実は何も知らないという状況なので、七瀬と瑠香との時間を楽しみながら美紀とエリカの喧嘩が収まるのを待つことにした。



 ◇◇◇


 遡ること、一時間前。

 日が昇り、太陽の陽が蓮見の部屋に差し込んだことで美紀が目覚めた。

 目を開けると、蓮見が目の前に居て朝から幸せだなと思い起き上がるとスマートフォンがバイブレーションしていた。

 こんな時間に誰だろうと思い、スマートフォンを手に取り見るが自分のじゃないとわかった。とりあえず出る気はなかったが、誰だろうと思い、隣にある蓮見のスマートフォンに視線を向けるとそこには『渡辺××』と見慣れた文字が映し出されていた。


「ん? エリカから……?」


 そう思った美紀は一度視線を寝ている蓮見に向けてみるが起きる気配がないので、相手も自分の事を知っているし、まぁいいかと思い電話に出てみた。


『あっ! 蓮見くーんおはよう!』


 とても元気の良い声が美紀の耳へと入って来る。


「もしもし? 残念ながら蓮見はまだ寝てるわよ?」


『……その声は美紀?』


 急に元気がなくなるエリカ。

 どうやら期待した相手じゃなかった為に、テンションが落ちたらしい。


「正解よ」


『なんで朝から一緒にいるの? てか寝てるのにどうして一緒か説明して』


「昨日お泊りしたからよ。それよりなんで朝から蓮見に電話を? 要件あるんだったら私から起き次第伝えてあげるわよ」


『お、お泊り!!!???』


 驚きの声をあげるエリカ。


「それで朝からどうしたの?」


『ちょっと! それどうゆうことよ! 私聞いてないわよ! それで何処までしたの!?』


「何もしてないわよ。ちょっと私が甘えただけ」


『本当にそれだけ?』


「そ、そうよ」


『ふ~んっ。まぁそれだけならいいや……なら蓮見君が起きたら伝えて。ギルドホームで待ってるって』


 エリカの言葉に美紀が引っかかった。

 いつもなら嫉妬してかみついてくるはずのエリカが今日に限って大人しい。

 つまりなにかあるなと判断する。

 こうゆう時の女の勘はよく当たる。

 なので素通りせずに少し様子を見てみる事にする。


「わかった。それでエリカに一つ聞いてもいい?」


『どうしたの?』


「最近蓮見とかなり仲が良いように見えるのはなんで? 二人の仲が急に縮まったように見えるのにはそれなりの理由があるのだと思うのだけれど」


『特に理由はないわよ。ただミニイベント前にキスをした日から私の方から積極的にアプローチしてたらよく連絡を取り合う仲に進展しただけよ。それと蓮見君の前ではちょっぴりえっちで優しいお姉さんだからね私。初心な男子高校生には刺激が強いかもしれないけど、たまにリアルで会ってお茶とかする時に相談受けたり、弱みを敢えて見せたりはしてるからかな~そう言った意味ではお互いに心を開いて秘密を共有もしてるしね。ふふっ……恋愛は一途で相手を尊重しこの人となら毎日連絡取ったり会いたいって思わせた方に女神は振り向くのよ。その為に私は蓮見君の神災を利用したのだからね♪ でも蓮見君は蓮見君で相談しやすくて甘えん坊であり甘えさせてくれるお姉さんと言う存在が近くに出来てそりゃ嬉しそうだし、何よりリアルでもゲームでも理解者である者が増えて嬉しいはずよ』


 自慢話をするかのように語りだしたエリカ。

 声を聴いただけでもわかる。

 エリカは今とても嬉しいのだと。


『美紀が幼馴染ポジションなら私はお姉さんポジションかな』


 美紀は察した。

 ここ最近何故か蓮見の成長がぶっ飛びだした原因がこれでハッキリしたと。

 そして恋敵はやはり手ごわいと再認識した。


「へぇー、そうゆう事だったんだ」


 とりあえずはどうなろうがはどうでもいい。

 問題はエリカに対するけん制をどうするかだ。

 このままでは仮に告白しても蓮見の心が揺れていることから成功確率がどうしても落ちる。

 それでは困るので、


「でもエリカがどんなに頑張っても私は蓮見と離れる気はないわ。それにその気になれば蓮見のお母さんがいない日を狙って一緒にお風呂だって……昔みたいに頑張れば出来るような関係なんだから」


 と、少し言い過ぎてしまった。


『わ、私だって蓮見君を部屋に呼べば出来るわよ! 明日祝日って事で今日の夜、蓮見君誘って来てくれたら……よ、余裕でお風呂ぐらいででででででできるわよ』


 見栄を張るエリカ。

 だけど最後の方は声が震え、動揺を隠せていなかった。


「少しこの後話したい事が出来たんだけど」


『奇遇ね。私もできたわ』


「『今夜どうするか決めるために三十分後ギルドホーム集合! じゃあね!』」


 二人の会話が終わった。

 当然蓮見は夢の中なので全部知らない。


 その後、美紀に起こされた蓮見は朝ご飯を食べさせてもらい、寝癖を直してもらいと新婚さんみたいに優しい美紀に世話を焼いてもらってから一緒にログインした。



 ◇◇◇


 そんな事があった。


 七瀬は美紀ともエリカとも一緒にお風呂入られても困るので先手を打つことにした。



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