第254話 恋愛裁判判決


 その時――。


「へぇー、この手伸ばしたって事は私の身体にもかなりの興味があるし、本気で女として見てるって証拠だよね」


 と手首を掴まれて言われた。

 全身に冷や汗をかいてももう遅いと知った蓮見。

 目をパチパチさせて、団子状態から出てきて美紀に捕まれた手首を見る。

 この状況では言い訳等できない。

 嵌められた。

 そう脳が判断した時にはもう何もかもが遅かった。

 手を引きたくても美紀の手にも力が入っており、簡単には抜けない。

 部屋の温度が二度は下がった、そう思う程に蓮見は自分が何をしようとしていたかの重大さを再認識し、


 ――やべぇ、やっちゃった。


 と心の中で自分の行いを反省する。


「言い訳はあるかな?」


「な、ないです」


 急に静かになった部屋の空気が重たくなる。

 美紀が急に黙った。

 その事実だけで蓮見の寿命を縮める。


 一秒、一秒……と時間が経つ。


 だけどその一秒が十秒にも二十秒にも感じる。


 ――。


 ――――。


 しばらくすると、美紀がニコッと笑みを向ける。


「素直なはすみぃはやっぱり好き! ならポイントあげるから後三十点頑張ってよね。私本当にはすみぃに手を出されるのかなって思った時、ドキドキしちゃった。それとこれお詫びだよ」


 ――!!!!?


「だ、だから、今日は我慢して。別にどうしてもって言うなら……いいけど恥ずかしいし……。これで許して……意地悪な私を。でも……正直に言うと……特別な感情がないと……こんなことしないから……後は察してね」


 もうなにがなんだかがわからない蓮見は美紀の言葉が途中から聞こえていなかった。

 唯一分かるのは辛うじて聞き取れたポイントとお詫びって事だけ。

 蓮見の顔を自分の身体に引き寄せて、自慢の胸に押し当てる美紀。

 それから頭に腕が回されて、力を入れてきた。

 そうなると蓮見の顔が美紀の胸に埋もれるので、


「み、みきぃ!?」


「えへへ~、こうゆうの好きなんでしょ? だったらエリカじゃなくて私がリアルでしてあげる」


 柔らかい! めっちゃいい匂いがする! それにこの弾力は素晴らしい! 

 と蓮見の頭の中がお花畑状態になった。


「あぁ~やっぱり幸せ。もう順番なんてどうでもいいから私だけを見てよ……ばかぁ。ずっとヤキモチ焼いてて辛かったんだから……私も甘えたいし少しは手を出して欲しいってずっと思ってたんだからね……」


 とても小さい声でボソッと呟く美紀。

 美紀の胸を堪能する蓮見の耳にその言葉が聞こえてくることはなかった。


「ぷはぁー」


「嬉しそうだね。それでどうだった?」


「最高でした!」


「うん、それなら良かった。そろそろ時間も時間だし一緒に寝よ?」


「そうだな」


 布団を拾い上げながら蓮見が返事をする。


「なら電気消すね」


 その間に部屋にある電気のリモコンに手を伸ばす美紀。


「うん」


「お休み、蓮見」


「お休み、美紀」


 二人はベッドの上で横並びになって深い眠りへとついた。

 その後寝たふりをした美紀は静かに瞳を開け、蓮見が寝た事を確認してからもぞもぞと動き身体を寄せ抱きしめる。

 朝弱い蓮見が美紀より先に起きる心配はないので、そのまま目を閉じながら言う。


「大好きだよ、蓮見」


 精一杯の素直な気持ちを伝えた美紀は満足したので今度こそ寝る事にする。

 でもその前に、軽いキスをしてみた。事は美紀だけの秘密。

 これでもかなり美紀は美紀で我慢している。

 だって女の子にも性欲は当然あるし、もしかしたら……って今日期待していた自分がいるから……。

 我慢するぐらいなら、好きの一言ぐらい言って手を出して欲しかったし、なんなら告白の雰囲気を作ってくれたらもうこの際告白してもいいかなって思ったぐらいにこの想いは大きくなっている。


「本当はもう百点で私が蓮見に落とされてるんだよ……。早く気付いてね」


 それから美紀の意識も夢の世界へと落ちて行った。

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