第236話 その名は飾りではない


 とうとう頭の中で何かが吹っ切れた【神眼の神災】が声を高くして笑い始める。

 それを見た九人が武器を構え警戒態勢に入る。

 HP一しかない蓮見は何者よりも速くパワーがある。

 その為、最大火力をもって後十分生き残る為に抗う事にした。

 あるのは前進のみ。

 後退の二文字は残念ながらない。


 だけど負ける確率は百ではない。

 ならば見せてやろうではないか、成長した姿を。


 突然笑い始めた蓮見を見た七瀬は先制攻撃で主導権を狙い即座に行動に移った。


「日頃の恨みを込めて、スキル『爆焔:炎帝の業火』(ばくえん:えんていのごうか)!」


 七瀬を中心とした大きな魔法陣が地面に出現する。


 システムアシストによってスイレンの素早い動きが捕捉され七瀬の視界に敵座標が表示され、茶色い髪が赤色に染まり、ゆらゆらと燃え始める。それから数秒で魔法陣が消え、今度は杖が赤い色に染まり強い光を放ち始める。杖から放たれた燃え盛る炎が蓮見を容赦なく襲う。


「ちょ! ミズナ!?」


「お姉ちゃん!? 超本気じゃん!」


「当たり前よ! 何回紅に殺されかけたと思ってるのよ! たまにはやり返すわよ!」


「それは一理あるわね!」


「そうゆう事なら納得!」


 知らず知らずのうちに買っていたギルドメンバーの怒りが蓮見に向けられる。


「スキル『破滅のボルグ』!」


 槍が黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放ち始める。

 美紀が大きくジャンプをして投擲の構えを取り、全力で投げる。

 それから着地と同時に走り始めた。


「スキル『加速』!」


 瑠香も美紀に続くようにして走る。

 それに便乗するようにしてソフィ、スイレン、【ラグナロク】の幹部が動こうとするがパートナーが止める。


「待って、紅の最初の一手を見てから動いた方がいい」


 綾香が警戒心を高めて、蓮見を凝視しながら言う。


「待て、アイツがただやられるわけがない。動くのは最初の動きを見てからだ」


 リュークは第三回イベントの経験を活かし後だし戦法で仕掛けることにした。

 先出し程危険な事はないと身を持って経験しているからだ。


「落ち着け。アイツはあれだけでは負けるような男ではない」


 ルフランもまた直感で感じ取っていた。

 ただ負けてくれるようなそんな生易しい相手ではないことを。

 だからこそ今すぐ動きたくなる行動を抑制し警戒した。


「なるほどな。ならスキル『爆焔:炎帝の業火』!」


 蓮見が鏡面の短剣を複製からの木の枝の形にして七瀬の必殺の一撃を模倣する。


「他が動いて来ないってのは残念だが、まぁいい。スキル『水振の陣』『罰と救済』!」


 七瀬の必殺の一撃に水属性と強制テクニカルヒットが付け加えられ飛んでいく。


「まだだ! スキル『猛毒の捌き』!」


 前方には赤と青と金色の魔法陣。それだけで終わる事はなく後方に新しく紫色の魔法陣が出現した。そこから放たれる矢が美紀の放った『破滅のボルグ』で飛んでくる槍をKillヒットで強引に撃ち落とす。まだまだ未熟者の為、一本の槍に全ての毒の矢を使ってしまった。


「これが俺の新しい水爆だ! 俺の全力シリーズ、超水爆!」


 ドガーン!!!


 七瀬の爆炎と触れたことにより蓮見の爆炎が水蒸気爆発を起こす。それは『虚像の発火』とは比べ物にならない爆発力を秘めており、蓮見に接近していた美紀と瑠香の身体を軽々と吹き飛ばしてしまう程の衝撃波を生み出した。

 そして息をするだけで肺を破壊するのではないかと思われる熱い蒸気となった熱風が辺り一面を覆いつくす。

 熱い水蒸気は辺り一面覆うだけでなく視界も悪くする。それもかつてない程の広範囲で。

 これでは周囲の風を巻き上げた程度ではどうしようもできないと判断するルフランと綾香。それに近くには未だに燃える瓦礫の山があり二酸化炭素を排出している。

 息苦しさの条件だけで言えば過去最悪の一言に尽きる。それに蓮見以外は目と耳にダメージをなんらかの形で受けているため万全状態とは言い難い。つまり――。


「「「「やっぱり【神眼の神災】の異名は伊達じゃないか……」」」」


 ルフラン、美紀、綾香、リュークが言った。

 それと同時に全身の血が疼き始めてしまった。多少の視力と聴力の低下。いいハンデだと思い、全員が一斉に動き始める。

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