第225話 甘える理由が欲しい美紀


 だが怒った美紀を見て蓮見は困ってしまった。

 心の悩みを打ち明けただけなのに怒られるとは思ってもいなかったからだ。

 ここは一旦ゲームの事は抜きにして美紀とのプライベートの時間を優先する事で許してもらう事にした。

 その為には、まず美紀のご機嫌を取る事が大事なわけで。


「ごめん。お詫びになにかして欲しいことあるか?」


「私そんなに安くない」


 ご機嫌斜めとなった美紀。

 だけど――。


「最近一人が寂しいことあるから甘えさせてくれるなら許してあげるわよ?」


 頬を染め恥ずかしがりながらチラチラと蓮見の顔を見て美紀が言う。

 理由がないと恥ずかしくて素直に甘えられない女の子の願いに蓮見が答える。


「最近やけに甘えん坊だけどなんかあったのか?」


 蓮見は質問をしつつ、身体を少し動かして美紀に近づく。

 そのまま左手を伸ばし、頭を撫でる。


「う……うん」


 美紀の頬が熱を帯び、口元が緩む。

 それから目の焦点がズレ始めた。


「最近その……」


 恥ずかしがる美紀。


「どうした?」


「そ、その前に話した好きな人に……他の女の子が近づいていて、なんだかんだ仲が良いみたいでその……寂しい……と言うか……不安になると言うか嫉妬もしてると言うか……」


 チラチラと蓮見を見て小声で女の子をする美紀に蓮見の心がチクッと痛む。


「そうなのか……」


「うん……。私可愛いくないから綺麗な女の子にはやっぱり目劣りするみたいで」


「そうなのか? 俺から見たら高嶺の花なんだけどなぁ……」


 蓮見が答える。

 そう、蓮見にとって美紀は高嶺の花なのだ。


 そして美紀はさり気なく心の悩みを打ち明けてみる。

 最近エリカに嫉妬していると婉曲的表現で。

 だけど恋に臆病な蓮見に美紀の気持ちが上手く伝わる事はなく、逆に蓮見は蓮見のさり気ないフォローが美紀に届く事はなくとここまで二人の仲が良縁なのにも関わらずあと一歩のところですれ違う二人。


「本当に?」


「あぁ」


「ならさ、もし私が蓮見に告白してあげたら真剣に考えてくれるの?」


 上目遣いで質問してくる美紀に蓮見の鼓動が速くなる。


「あ、あたりまえぇだろぉ」


 緊張のせいか少し変な声と言葉になるが、平然を取り繕って答える蓮見。

 仮にそんな事があれば蓮見の答えは――。と考えていると。


「そっかぁ。ならさ、私の嫌な所含めて全部好きになってよ。それでいて私をしっかりと振り向かせてくれたら彼女になってあげてもいいよ」


 ちょっと意地悪を含めつつも、大好きな気持ちを隠して美紀が手探りで少しだけ告白が成功するかを確かめてみる。

 これだけでも死ぬほど恥ずかしい気持ちになる。これだけ一緒にいるのに、それでもこの緊張感。自分はどれだけ目の前の男に心が惹かれているのだろうかと嬉しくも一方的過ぎて悔しい気持ちに襲われながらも蓮見の目をジッと見つめる。


「で、でも美紀好きな人いるって」


「だから、まだ私その人と付き合ってないんだから、奪えって意味よ!」


 あーもう! なんで伝わらないかな! このバカ、アホ、ドジ、マヌケ!

 と心の声を殺す美紀。


「は、はい。頑張ります」


 美紀の圧に負け、うろたえながらも答える蓮見。


「あーもう、なんで手を止めるのよ。もう怒った! ほら詰めた、詰めた」


 恋心を悟られないようにと必死になりながらも自分の気持ちに制御が効かなくなったことにイライラした美紀は自分に対しての怒りを蓮見に抑えて貰うことにした。

 ベッドに自分の陣地を確保し、横並びになるようにして寝転ぶ。

 それから――。


「はい。ここまでしてあげたんだから、そのまま頭撫でなさい」


 どうしても甘えたいから撫でてと恥ずかしぎて素直に言えない美紀は目に涙を溜めながら言う。そうなんで恋になるとここまで緊張して上手く丁寧に言葉を伝えられないのだろうと自分で自分を責める美紀。


「わかった。てか泣くなよ」


「まだ、泣いてないもん!」


「そっかぁ。美紀って可愛いからモテるとは知っていたけど、そんな美紀でも恋は大変なんだな」


 そう言って微笑みながら美紀の頭を撫でてあげる蓮見。


「うん。やっぱり蓮見のそうゆうところ好き。私の気持ちをたまにだけど理解してくれるところが。それに下手になんで? とか聞いてこない所かも。女の子ってさ、恋すると恥ずかしくて素直になれない事が多いんだよね」


 あれ? 美紀が思う。

 なんで――今。

 素直にありのままの気持ちを言葉にできたのだろうと。


「そっかぁ。俺はただ言いたくなったら美紀の性格上勝手に誰かに話すかなって思ってるから聞かないだけだけどな」


 そして納得する。

 先日甘えん坊美紀ちゃんになったとき、一人長々と七瀬相手に話していた自分を。

 そう蓮見はやっぱり美紀の事を理解してくれているのだと。

 普段何も言わないだけでありのままの美紀を受け入れてくれているのだと思った。

 だから、ちょっとだけ頑張ってみることにした。


「蓮見?」


「どうした?」


「後ね、五十点。私のポイント稼いだら私が蓮見に告白をちょっとだけ考えてあげるよ」


 蓮見の目が大きく見開かれれる。


「だから頑張ってみない? お返事は?」


「……はい」


 やっぱり蓮見の隣が一番落ち着くし、ドキドキするし、幸せな気持ちになれるなと再認識した美紀。


 それから蓮見は思った。

 可愛い顔をして、時に意地悪な癖して、変に期待させてくる校内で断トツ一位の高嶺の花でもある美紀に心が揺さぶられてしまった。それに目がうっとりした美紀は無防備と言うか何と言うか抱きしめたくなるような可愛いさがあった。


 二人はしばらく見つめ合い、お互いの気持ちをそれぞれ確認し合った。

 それから沢山頭を撫でられた美紀はこのまま告白しようかと気持ちが緩んだが、もうちょっとだけ我慢することにした。そして蓮見が本当に自分を好きなのかを見極めることにした。だってやっぱりエリカとの関係が気になるから……。


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