第216話  決闘前のお祭り騒ぎ


 ――翌日。

 準備を終えた蓮見達が第二層の闘技場へとやってくる。


「久しぶりにきたけど、今日凄い人の集まりだなー。なにかお祭りでもあるのか?」


 まるで他人事のように呟く蓮見。


「うーん。紅?」


「なに?」


「多分だけど皆ルフランを見に来ているのよ。ルフランってほら暫定一位って言われるぐらい強くてファンも多いから。特に女はカッコ良くて強い人好きだし」


 美紀は敢えてルフランだけでなく蓮見を見に来ているとは言わなかった。

 だって言ったら「うそっ!?」と言って話しがややこしくなる気しかしなかったから。

 ここまでくると多少は自分が有名人だと知って欲しいところではあるけど、外部の情報を一切必要とせず己の発想力でどんなピンチでも乗り越えてきた人間にとっては提示板はやはり無用なのだろう。


「マジかー。いいなぁー女の子のファンいて……」


「そうね。紅とは違ってルフランイケメンだからね」


「……チッ。ルフラン覚えてろよ」


 舌打ちして内なる闘志を燃やし始める蓮見。

 それを隣で見て相変わらず単純だなと思う美紀。


「それよりエリカ達やけに静かね」


 そう言って後ろを振り返ると、エリカ、七瀬、瑠香が焼きとうもろこしを食べながら、もう片方の手にはポップコーンを持っていた。


「なに、三人してお祭り気分になっているのよ!」


「んー? だって今日限定の出店で売ってたからついね。なんなら里美も一口食べる?」


 そう言ってエリカが美紀の口に先ほどまで自分が食べていた焼きとうもろこしを突っ込む。


「むぅぅ~!?」


「ね? 美味しいでしょ?」


 確かにと思い頷く美紀。


「うん。なら私はホットドックと焼きとうもろこし買ってこようかな」


 運営が集客の為に急遽開いた出店は大繫盛となっていた。

 そして第二層闘技場は昨日ルフランの宣戦布告を見た運営が慌てて増築し観客席を増やすと運営は運営で密かに二人の戦いを応援し見守っていた。


「あー里美!」


「なに?」


「俺も食べたい」


「……緊張感なさすぎでしょ」


「ダメか?」


「あーもうわかったわよ。なら一緒に来なさい。それから私はエリカ達と観客席に行くから紅は控室に行くといいわ」


「おう! サンキュー」


「頑張ってね、紅君」


「応援してるからいい試合してくるんだよ、紅」


「負けて当たり前と思って全力で戦って悔いのない試合をしてきてください、紅さん」


 エリカ、七瀬、瑠香の応援を先に貰い、蓮見がニヤリと微笑み頷く。


「はい。それに昨日また名案思いついたので今日こそ名誉挽回しますから見ててください!」


「そう。相変わらずテンション高くてなによりなことね。なら勝ったらお姉さんがお泊りして今度全身マッサージをしてあげるわ」


「マジっすか!?」


「えぇ」


「おっしゃ!!! 俺勝ちます!!!」


 美紀達を見て舌を出して微笑むエリカ。

 普通に考えて蓮見とルフランならばルフランが勝つことは目に見えている。

 だが一つだけ。今のエリカ言葉でルフランの敗北率が上がった気がする――と言う四人の女の勘が働く。


「ならその時はエリカさん暴走するといけないから私とルナも一緒にお泊りするわ」


「えっ……なら私も」


 七瀬の言葉に置いていけぼりにならないように美紀もその場の雰囲気でお泊りをすることを約束する。


「とは言ってもまずは腹ごしらえからだな! ってことで里美頼む、奢ってください」


「はぁ~」


 なんだろう。もう食べる事を優先している蓮見にため息しかでない。


「わかった。ならとりあえず私達は出店に行くわよ」


「おう!」


「なら三人共またあとでねー」


「「「はーい」」」


「なら私達は席の確保に行きますか」


「「ですね」」


 蓮見と美紀の背中を見送ってからエリカ達三人は観客席を向かう。

 お祭り気分で浮かれていられるのも試合が始まる前までと言う事をこの時三人いやここにいる全員が思いにもしなかった。

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