第201話 瑠香VS鬼武者 紙一重の攻防


 翌日、瑠香は再び剣の鬼と呼ばれる鬼武者がいる場所へとやってきた。

 今までの自分を超えなければ絶対に勝てない相手に勝つために。


「……ボス戦で紅さんは機転一つであの状況をひっくり返した。だったら私も負けていられない」


 瑠香は鬼武者と戦う前に精神統一をしてから大きく深呼吸をする。

 美紀と七瀬は今では多くのプレイヤーから【神眼の神災】とまで呼ばれるようになった蓮見より強いのにも関わらずよく影響を受けていた。そしてそのたびに強くなった。ギルドメンバーから何かを学ぶのにゲーム歴が長い、短い、上手い、下手等は関係ない。それを教えてくれた蓮見に心から感謝した。


「私は私のやり方で過去の自分を超える。紅さんにやっぱり瑠香は凄いって言ってもらえるように……ううん、私がどんな状況でも今度はしっかりと護り、護られる存在になるために、今日は絶対に勝つ!」


 両手で自分の頬を叩いて気合いを入れる。


 そして巻物に手を伸ばすと、鬼武者が姿を見せた。


「ほう、逃げずに来たか」


 剣を構える鬼武者。

 そして鬼武者の名前の上にHPゲージとMPゲージが出現する。


 それを確認した瑠香は意識を集中させる。


「………………」


 レイピアを構える瑠香。

 昨日あれから考えてわかった事がある。


 鬼武者はただ素早いだけじゃない。

 鬼武者は瑠香が瞬きした瞬間に動き始めているから、目で捉えるのに時間が掛かるのだと。

 だったら、鬼武者の行動を先読みすればいい。

 今までの戦闘経験全てをこの瞬間に活かして、今までの経験を強さに変える。

 それができなければ瑠香に勝ち目はない。


「スキル『加速』!」


 タイミングを見計らって同時に両者が距離を詰める。 

 剣とレイピアがぶつかり合う。

 剣の一撃を時に避け、時に――剣の側面をレイピアで叩く。

 そうして相手が態勢を崩した所で本命の一撃を入れる。


 息を忘れる程に集中して、やっと一撃。

 これを繰り返して徐々に鬼武者のHPゲージを削っていく。

 これが第三層でトッププレイヤー達を待ち受ける強敵(NPC)。

 そう思うと、身体中からアドレナリンが分泌されて息が苦しいのに最高に楽しい気持ちになってしまった。


「スキル『睡蓮の花』!」


 鬼武者が後方に大きくジャンプしてレイピアの間合いから逃げる。

 着地の瞬間に起きる不安定な一瞬を狙い、瑠香が前方へと跳躍し近づく。

 だが鬼武者は逃げるのではなく、逆に肉を切らせて骨を切るようにして瑠香の一撃を受けながら反撃してきた。


「奥義『一閃』!」


 奥義と言っているがその正体はスキル。

 当然タイミングが合えばダメージが入る。

 瑠香の一撃と鬼武者の一撃がほぼ同時に決まる。

 一気に減る両者のHPゲージとダメージを与えた事で消費した一部のMPゲージを回復する瑠香と鬼武者。



 ――正に紙一重の攻防。



 二つの攻撃によって発生した衝撃波が二人の身体を強引に引き離す。


 空中で態勢を立て直し、二人は着地と同時に右足で踏ん張り、後方に流れる運動エネルギーが弱くなったタイミングで再度爆ぜるようにして草原をかける。


「まだまだ! スキル『加速』!」


「ぬるい。奥義『加速』!」


 両者のAGIが同時に上がり、戦いのペースが激しくなっていく。


 カン、カン、キーン!


 レイピアと剣が激しくぶつかり合い生じる火花。

 お互いに距離を取るのではなく、少し大きめ円を描くようにして、相手の懐に入っては出てを繰り返す。


 息が苦しい。

 だけど一瞬でも足を止めれば、運が良くて致命傷、悪くて二度目の敗北。


 スキル『加速』の連続使用をしても溜まっていくMPゲージが二人の戦闘の激しさを物語っている。


「本気で行くぞ! 奥義『アクセル』!」


 さらに動きが速くなる鬼武者。

 瑠香の攻撃の手数が減り、防御が増える。

 だが時間が経てば、元に戻る。

 そう思い、必死になって防御を中心とした動きに切り替え反撃の隙を見るが、いつまで経っても動きが遅くならない。

 疑問に思い、鬼武者のMPゲージを見れば回復と減少を繰り返し、回復してはその分消費していた。

 スキル『アクセル』の連続使用。

 これは厄介だった。


「絶対にあきらめない!」


 しばらくすると鬼武者の動きに目が慣れてくる。

 これを機に反撃と思った時だった。


「奥義『連撃の舞』!」


 これは美紀が使っているスキル。なのでその効果は知っている。

 容赦ない14連撃が瑠香を襲う。


 だが。


「スキル『水流』『ペインムーブ』!」


 やられるだけでは納得がいかない。

 意識を集中させて背後から水流で襲う。

 最後の3撃を水流に使わせたと同時に赤色になったHPゲージを気にしながら、今度は瑠香が6連突きを鬼武者にお見舞いする。


 攻撃が終わると同時に振り抜かれた剣の一撃をバク転で躱して、そのまま後方に三回転して距離を取る。


「……はぁ、はぁ、はぁ。危なかった」


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