第192話 最後のトリガー


 現状蓮見のHPゲージとMPゲージは満タン。


 ダンジョンの中に風はない。


 蓮見が走る。

 矢が一本、一本と忍者のKillヒットポイントに向かって飛んでいくが全部通り抜ける。

 さっきと変わらない。

 だがよく見れば忍者が高速移動をして躱している事がわかった。


 テンションが上がり、いつも以上に集中した蓮見は考える。

 これは蓮見の持つ『領域加速(ゾーンアクセル)』の遠距離攻撃版的な奴だろうと。

 そうなるとやはり遠距離攻撃では分が悪い。

 広範囲攻撃なら通るかもしれないが今の蓮見はそんなスキルを持っていない。


 意識を忍者だけに集中して全ての攻撃をギリギリまで引き付けて躱す。

 攻撃された時は下手に反撃をせずに躱す事だけに集中する。

 自分はまだ初心者としっかりと今の自分の実力を再確認する。

 ちょっと第三回イベントで結果が出たからと言ってどこか天狗になっていたが、それは間違い。あれは美紀、七瀬、瑠香、が最前線で頑張ってくれてエリカが皆のフォローをしてくれたから残せた結果である。なのに蓮見はそれが自分の力だと知らず知らずのうちに心の中で誤認していた。だからこそ今日ちょっとした事で余計に落ち込んでしまった。だからもう迷わない。


 ある程度攻撃パターンがわかってきた。

 落ち着いて対処すれば一人だろうが十五人だろうが関係ない。

 だって全員攻撃パターンが同じなのだから落ち着いて対処すればいいのだ。

 それにクナイの届く範囲は蓮見のスキル『領域加速(ゾーンアクセル)』の効果範囲内である。スイレンのように強力なスキルを使うわけでもなく、クナイを投げてくる事もない。そう考えるとあの時、リュークと一緒に戦ったスイレンの方がよっぽど強かったし怖かった。


 ならばと思い攻撃を躱しつつアイテムツリーから先ほどエリカから受け取った龍の粉が入った茶色大きめの袋取り出しては忍者に向かって次から次へと投げていく。


 忍者はそれをクナイで切り裂きながら前進してくる。


「笑止!」


「おっ? 喋った」


 どうでもいい所で驚く蓮見。


 しばらくすると、ボス部屋全体に龍の粉が蔓延し視界が白くなった。


「ふぅー。まさか準備に十分もかかるとは……」


 蓮見が念の為に美紀達に視線を向ける。

 すると何枚か数えるのが馬鹿らしくなる枚数の『導きの盾』で作ったもはや結界と呼ぶに相応しい安全圏にいた。今もまだ七瀬はMPポーションを飲んでは『導きの盾』を複製している。


「俺信用ねぇな……」


 蓮見は自分が負けるかも知れないと思われていると勘違いしてしまった。


「そりゃ里美やルナには剣じゃ勝てないし弓でもミズナさんには勝てないけど……」


 ふてくされ始めた蓮見。

 だけどそのおかげで仲間の心配という単語が頭の中から消えた。


「行くぜ、忍者! 名付けて俺の全力シリーズ、究極大爆発パレード(アルティメットビッグエクスプローション)だ!」


 その言葉に美紀達が全員頭を伏せてしゃがむ。


「ミズナこれ本当に爆発に耐えられるんでしょうね?」


「知らないわよ。紅が具体的に何をするかも知らないんだから」


「とにかくこれあげるから全員HPポーション飲んで!」 


「エリカさんは一番奥にいてください。私と里美さんの方がVIX高いので」


「ありがとう」


「ほらミズナもこっち。アンタもVIX低いでしょ」


「あっ、うん。ありがとう」


 それはもう美紀達は大パニックである。

 いやこの状況からある程度察する事は出来る。

 なんで蓮見のHPゲージが満タンなのかを考えれば、なんとなくわかってしまう。

【神眼の天災】と言えば火と毒。これは第三回イベント前の情報から殆どのプレイヤーが認知している。

 だが今回はただの爆発で終わる気がしないのだ。

 だって本人が究極(アルティメット)大爆発(ビッグエクスプローション)とか大声で叫んでいるのだ。こんなの普通に考えて嫌な予感しかない。そもそも英語が出来ない蓮見が英語を使う程吹っ切れているという事実が今は一番恐ろしい。


「See you again Ninja 。スキル『レクイエム』!」


 ニヤリと不敵に微笑む蓮見。

 十五体の忍者に囲まれ同時に攻撃されそうな状況。

 だけどここから逆転出来たら俺超カッコイイじゃん! と自分に言い聞かせる蓮見。

 MPゲージ一割を消費して狙いを定めないとにかく発火を目的とした一射が放たれる。


 物体(対象)に触れると爆発(発火)する一本の矢が空気を切り裂き進む。

 それは忍者に当たらない。

 だがボス部屋に用意された『導きの盾』へと当たった。



「えっ?」



 七瀬はまさか自分達を護る為に用意した『導きの盾』が自分達が恐れている現象を引き起こす最後のトリガーになった事を後悔した。

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