第189話 神眼の天災、ついに無力となる
「上等だ! やってやろうじゃねぇか! いるなら最初から姿見せろ! おかげで幽霊系統の敵と思ったじゃねぇか!」
叫びながら蓮見が矢を手に取り弓を構える。
自らボスの事を何も調べていないと公言した蓮見の後ろでは美紀とエリカが「やっぱり……提示版すら見てないか」とため息をついた。
七瀬と瑠香は「相変わらずその度胸が凄いなー」と内心驚いていた。
「スキル『猛毒の捌き』!」
蓮見の後方に出現した紫色の魔法陣が出現する。
そこから勢いよく毒の矢が連射される。
理不尽な怒りから湧き上がった感情に身を任せ、最初からKillヒット狙いの蓮見。
だが狙いは悪くない。
一発でも決まればこれで勝てる。
何より毒の矢は全て追尾性能を持っているし蓮見が操ろうと思えば操る事も可能だ。
多少敵が逃げても三十の毒の矢から完全に逃げる事は不可能。
七瀬と瑠香が勝利を確信して早くもハイタッチして喜ぶ。
美紀とエリカも流石にこれはもう終わったかとボスの手応えを感じずにただただこの戦いの行く末を見守っている。
「嘘だろ!? 消えた……って増えた!?」
蓮見の視界の先で忍者が消えたかと思ったら、十人に分身し、毒の矢は分身全てに攻撃したが全て矢が身体を通り抜けていった。
「えっ!? なに!?」
「どうなってるのよ?」
これには美紀とエリカも驚いてしまった。
「とりあえず、全員構えて。スキル『導きの盾』!」
「紅さんは私の後ろに」
七瀬と瑠香が急いで蓮見を中心として武器を構え、忍者の反撃に備える。
これこそ運営が毎回事あるごとに暴れる【神眼の天災】対策である。
Killヒットとテクニカルヒットを発生させさせなければ【神眼の天災】の戦力を大幅に削る事が出来る。何より人型と標的を小さくすれば的が小さい分当てずらい。そこから敵の回避性能が高いとなれば更に難易度があがる。
正に【神眼の天災】キラーと言ってもいいボス仕様である。
蓮見に幻術系統の対策スキルはない。
俊敏性が高い分攻撃力が低くはなったが、その分は今までのボスのHPを倍以上にする事で対策もされている。
Killヒットとテクニカルヒットが上手く機能しない状態の蓮見にはもっとも面倒な敵である。
後はその高火力となっているスキルを全部使わせれば蓮見は完全に終わり、普通のプレイヤーとしての道を歩み始めるのではないかという運営の願いも忍者には込められている。
「幻術系統……なら私達がやるしかないか」
美紀の表情が変わり、戦闘態勢に入る。
一瞬にして限界ギリギリまで集中力を高めた美紀は全神経を集中させた。
そして忍者から放たれる僅かな殺気を捉えた。
分身は幻術。だけど本体と同じ質量があるらしい。これでは有幻術と言ったところだろうか。
だけど幸運なの幻術――分身の中に、本体がいると言う事だ。
毒の矢を躱した理由はわからない。
そう思った美紀は槍を構え全力で忍者に向かい走り始めた。
「ルナ私に続いて。本体はあの中にいるわ!」
「わかりました!」
美紀とは別の忍者を狙い瑠香が動く。
七瀬はエリカと一緒に蓮見の護衛である。
こうなった以上、今の蓮見に出来る事はほとんどなにもない。
美紀と瑠香が分身を一体また一体と倒してく。
だけど美紀と瑠香の動きについてくる忍者は手強かった。
動きが速く、しっかりと態勢を崩してからじゃないとダメージを与えられないのだ。
分身にも本体と同じステータスがあるらしく、一体に集中すると残りの分身が攻撃してくる。どれが本体かわからない以上全てを相手にしなければならない。確率上は少しずつ本体を捉える可能性が上がりつつあるが、なかなかその本体を見つけ出せずにいた。
ボスのMPゲージが徐々に減っている事から分身の維持の為にも攻撃の手を中々休めてくれない。
七瀬の援護も忍者のAGIが非常に高い為に上手く機能しない。なにより七瀬の方にも攻撃が飛んでいき、完全に援護というわけにはいかなかった。蓮見とエリカも頑張って応戦するが二人には忍者の相手――分身一体でもかなり分が悪く倒すと言うよりかは生き残る事だけで精一杯だった。
正に強みを失った蓮見。
表情には出さないが、その精神的主柱を折られたショックは大きく、いつもより戦闘に集中できていない。
美紀と瑠香はそれに気づいていながら、後退ではなく積極的に攻撃を仕掛けていく。
七瀬とエリカはチラチラと蓮見を見ては心配するが声はかけない。
自分達の言葉が更なる精神的ダメージを与える事になるかもしれないからだ。
こればかりは自分で立ち上がってもらうしかない。
迂闊だった。
七瀬はそう思った。
運営から前衛後衛のバランスの取れたチームと聞いた時に、この可能性を考えていればと後悔していた。幻術を使うアンチスキルは魔法使いが得意だし、AGI特化の敵には近接戦闘の同じくAGIが特化したプレイヤーが適任である。まだ幻術系統のスキルはトッププレイヤーの一部しか持っていない事からボス戦では気にしなくていいだろうと勝手に思っていた。その為、七瀬はアンチスキルを習得していないのだ。不幸が不幸を呼び、いつの間にか全員の支柱となっていた者の初めての苦戦に状況が良くなっているはずなのに悪くなっているように感じられる。忍者のMPゲージがこのまま満タンになればまた一から相手にするとなると精神的にキツイ。NPCに体力と言う概念がなくてもこちらにはあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます