第179話 瑠香の恋心
「ほら瑠香も今のうちにさり気なくアタックしてきなさい」
「いいよ……どうせ私なんか相手にされないし……」
「瑠香だって私から見たら可愛いし、もっと自分に自信をもっていいと思うけど」
「相手が悪い……。二人共綺麗で可愛いし」
「ゲームの時はそんな素振りなかったのに急にどうしたの?」
「だって実際蓮見さんリアルだとゲームの時よりカッコイイし、さっきから緊張して上手く話せないの……」
「でもずっとこのままってわけにもいかないでしょ? 進展したいんでしょ?」
「それは……そうだけど。お姉ちゃんにはこのドキドキする気持ちがわからないからそんな事言えるんだよ」
その時、七瀬の心がチクりと痛みを覚えた。
知らない、わからない。それは経験した事がない相手に言う言葉である。
そして瑠香の言葉に七瀬はなんて答えるか一瞬迷ってしまった。
「ふ~ん。お姉ちゃん後で後悔しても知らないからね」
心に反してつい冷たい態度をとってしまった。
それは七瀬の心情の問題が招いた結果。
「……別にいいもん」
他者との比較で容姿にコンプレックスを抱いている瑠香を七瀬が誘導しようとするが、失敗に終わる。だが、恋の神様は気まぐれらしく、そんな瑠香にもチャンスが訪れる。
「おっ! 瑠香大丈夫か? 何か落ち込んでいるみたいだけど?」
「え? あっ、はい! 大丈夫です!」
瑠香の顔がパッと上がり、慌てて返事をする。
「悩みあるならいつでも聞くぞ?」
「はい、ありがとうございます」
蓮見の気遣いが瑠香の表情に笑みを取り戻させる。
蓮見は蓮見で瑠香に気遣いをしながら、美紀とエリカが言いたいであろうことに気付いて置きながら気付いていない振りをして誤魔化す事にした。
「なぁ、ちょっとスマホ貸してくれ」
「はい、別にいいですけど」
瑠香はスマートフォンをスカートのポケットから取り出してそれを蓮見に渡す。
蓮見はそのまま瑠香のスマートフォンと自分のスマートフォンを操作してから瑠香に返す。
「俺の連絡先入れておいた。仲のいいお姉ちゃんだから相談しにくい事もあるだろ? そんな時は俺に連絡しろ。いつでも相談に乗ってやるから」
「はい! 流石、頼りになるお兄ちゃんですね! 大好きです」
瑠香は目を大きく見開いて、答える。
そして突然の展開で好きな人の連絡先をゲットできたことに大きな喜びを得た。
それとは別についその場の勢いで出た言葉にハッと気が付き顔が真っ赤になった。
しまった! と自覚した時には時すでに遅し。
身体は正直らしく、心臓の鼓動が高まり、全身の血の流れが速くなった。
「あぁ~! ズルい! 蓮見君私とは?」
蓮見の隣にいたエリカは身体を揺さぶって、顔を近づける。
その顔は単なる嫉妬に近く、年上の女性と言うよりかは、子供に近かった。
「クスクス、エリカ可愛い」
美紀が笑う。
「な、なによ! 別に私だって……」
「あら、どうしたの?」
「……べ、別にいいでしょ。私だって知りたいって思っただけ……だし」
「へぇ~」
美紀がまるでエリカの弱みを握ったかのように悪い顔をする。
蓮見がエリカを見ると、珍しく困った顔をしていた。
だけど見ていて思ったのだが、この二人仲が悪いってことはなさそうだなと蓮見はこの時思った。こんなにも二人がありのままの自分を出せるってことはきっと仲が良い証拠なのだろう。実際に蓮見は第三回イベントは当然、第一層攻略の時から美紀とエリカの仲の良さを知っている。
「なら交換しますか?」
「うん! しよ、しよ」
「って、私を仲間外れにしないで。ほら蓮見私とも」
こうして蓮見は瑠香、エリカ、七瀬と無事に連絡先の交換をした。
蓮見がエリカと七瀬と連絡先を交換している間、邪魔にならないように蓮見の側を離れ美紀は瑠香の隣に行き話しかける。
「瑠香よかったね。蓮見から連絡先教えるって実は珍しいのよ」
「美紀さん?」
「蓮見なんだかんだ言って優しいから」
「ですね。初めて会った時に、あっ、この人優しくてきっと一緒にいて面白い人だなと思いました」
「だよね。見てて飽きないよね」
「はい。それによく私の事を見てるなって今思いました」
「残念ながら私やエリカ、後は……隠しているつもりだろうけど瑠香もか。私達の想いには確証が持てないのか本当に気が付いていないただのバカなのか中々察してくれないけどね」
少し悲しそうな顔をして言う美紀。
そんな美紀の視線の先にいる蓮見を見た瑠香は思った。
「ふふっ。そうかもしれませんね」
「瑠香?」
「いえ、何でもありません」
瑠香はこの時、好きすぎるからこそ視野が狭まり美紀とエリカがある事に気が付いていないんだなと思った。蓮見が二人の気持ちに気が付いてないんじゃなくて、二人の想いにどう答えていいのかがわからないのだと。つまり蓮見の中ではまだ明確な答えは出ていない事。そしてまだ自分にも可能性がある事実にも気が付いた。
「チャンスは蓮見さんが悩んでいる間か……」
瑠香がボソッととても小さい声で呟いた。
それから五人は美紀が作ってくれた手料理を頬張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます