第153話 大きな間違い


 美紀と七瀬はイベント専用MAPを使い、自分達の場所が何処なのかを確認している。

 そしてそんな二人の前には【雷撃の閃光】ギルドの拠点の一つが存在している。


 美紀と七瀬の手に緊張で汗がにじみ出る。



「行ける?」



 美紀の質問に七瀬がコクりと頷く。


 そして二人は敵の拠点へと向かって走りだす。



「北東方面より侵入者だ!」



 流石は【雷撃の閃光】ギルド。

 だが。



「私相手にはそれでも遅い! あの時の借りは今返させてもらうわ!」


 美紀は電光石火の如く、敵に近づき持っていた槍で倒しながら奥へと進んでいく。



「ふっ……。まさか一人で来るとは愚かな奴だ。全員あの女を倒せ!」


 一人の男の声が響く。

 そして美紀を囲むようにして、敵プレイヤー達が動く。


「私いつ一人って言ったけ?」


 美紀が口角を上げて、とても小さい声で呟くと後方から雷と水手裏剣が飛んできた。


 突然の攻撃に敵の意識が森の茂みの方に向けられるが、その直後今度は美紀の槍が容赦なく襲い掛かってきたため、意識が強引に戻らされる。


 謎の攻撃を把握したくてもそれを美紀がさせない。

 どちらかに対処しようとすれば、どちらかの攻撃に対する意識が薄れる。だけどその一瞬の隙を二人が見逃す事はない。


 そして数に頼り美紀を物量作戦で潰そうとすれば、今度は強力な炎の塊――『焔:炎帝の怒り』が容赦なくプレイヤー達をまる焼けにしてしまう。


 何もこれだけで終わるはずがない。

 今度は不自然な地響きと少し離れた所から蓮見の笑い声と爆発。


 今までの蓮見の行動を知っている多くの者からしたらそれは正に畏怖を覚える要因としては十分過ぎた。

 あの【神眼の天災】はいつ何をするか誰もわからないのだ。

 故に放置等出来るはずもない。


 これがエリカの発明した自動音響装置である事を知らないプレイヤー達は激しく動揺してしまった。



「スキル『パワーアタック』『破滅のボルグ』!」



 そんな中、美紀は大きくジャンプして空中で投擲の構えを取る。

 槍が黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放ち始めた。

 狙いは恐らくここの拠点を任せられているであろう、指示役の男ただ一人。



 当然遠距離攻撃によりこれを邪魔しようと障壁が展開され攻撃もされるがそんな事は関係ない。

 七瀬は自分の周りに『導きの盾』を展開し身を護り、MPポーションを飲み、飛んでくる遠距離攻撃から美紀を護り、再度『焔:炎帝の怒り』で今度は敵の障壁を破壊する。


 その間に何人かが剣の間合いに七瀬を捉えるが、七瀬もまた近接戦闘が出来る事を知らないプレイヤーは逆に不意をつかれ倒させていく。

 手に持っている杖がそこら辺の剣よりも恐ろしい鈍器ともなる世界では一人の女の子だからと言って安易に手を出せばどうなるかは語るまでもない。



 グハッ!?



「ありえない……」



 ――。

 ――――。



「撤退! 撤退!」



 指示役を倒され、今も聞こえる蓮見の笑い声にビビった者達は逃走を始めた。

 美紀達はそれをすぐに追うわけでもなく、ポーションを飲みながら黙って見送った。


「拠点はあっちなのね」


「みたいね」


 二人はそのまま敵に気づかれないようにして、気配を出来る限り消し距離感に気を付けて尾行を開始した。



 その頃、拠点ではエリカと瑠香が石段に座りお話しをしていた。



「それにしても里美とミズナって元気よね」


「ですね」


「疲れてないのかしら?」


「多分疲れてはいるんでしょうけど……ん? やっぱり私も今は何故か無性に戦いたいんですよね」



 二人が防衛として石段で待機していると、敵がぞろぞろと姿を見せ石段の上にいる二人に向かって駆け寄ってくる。



「二人共前衛だ! 後方支援はない、一気に行くぞ!」


 敵は二人の装備から前衛か後衛かを判断する。


「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」


「どうします? 私一人でやりましょうか?」


「何言ってるの? 私も戦うわよ!」


「では二人で行きましょう! 紅さんは休息の為に呼ばない方向でいいですよね?」


「えぇ!」


 瑠香がレイピアを構え、エリカが大剣を構える。


 一つ言っておくと、エリカは生産職だと敵は油断しているが、それは大きな間違いである。


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