第十三章 作戦修正

第126話 隠密行動



 周りのギルドから対する評価を知る事ができた美紀達はその後、周囲にいた他のギルドの偵察隊を潰しながらギルド拠点へと戻る。


 意外にこの辺にも偵察隊が少しずつ来ているようで、ゲットした拠点が同時に襲われる事も視野に入れなければならないと三人は黙っているがそれぞれ考えていた。


 となると蓮見がいるギルド拠点の方にも敵ギルドの偵察隊がいつ来ても可笑しくない。


「イベントが開始してからもうすぐ一時間になるわね」


「そうね。それにしてもこれ結構キツイイベントね。まだ八時間もある」


「やっぱりこれ長いわよね~。でもまぁ嫌いじゃないけど」


「だよね。里美は昔からこう言ったイベント好きだもんね」


「まぁね」


 美紀と七瀬の会話に割って入るようにして瑠香。


「多分ペース配分とかも考えないといけない、要は頭を使わないといけないイベントなんだと思います」


 瑠香の言葉に美紀思う。


 ――蓮見が毎回暴れるから、その対策の意味もある?


 瑠香の言葉に七瀬思う。


 ――【神眼の天災】がいつも好き勝手暴れるから、体力を奪いに来た?


 二人の頭の中では運営が蓮見対策として時間を長くしたのだと考えた時、そこに何の違和感もなく妙に納得できる何かがあった。


「「そうかも」」


「おぉ~お姉ちゃん達息ぴったりだね」


「「そうね、あのバカが……って、え?」」


「ミズナも?」


「里美も?」


「「……やっぱりそうなるよね」」


 と見事なシンクロをした。


 それを見て瑠奈は「ん?」と言って首を傾げる。


 それから美紀と七瀬は急に蓮見の事が心配になったので急いで帰る事にした。



「ちょっと、お姉ちゃん、里見さん、私をおいていかないで~」



 三人が走って帰っている頃――ギルド拠点にて。


 蓮見達は定期的に姿を見せて襲い掛かってくる敵プレイヤーを倒していた。


 少人数規模のパーティーだったため、蓮見は石段の上から弓を構え矢を放つ一方的な攻撃となっていた。仮に蓮見の攻撃を躱して石段を登ってきてもエリカがそれを阻止する形で倒した。



「流石、紅君ね~。余裕ね!」



「ありがとうございます。昔だったら結構苦戦していたんですけど気づいたら何か出来るようになってました」


「きっと知らず知らずのうちに成長したんだね。成長と言えば私も最近またおっぱいが大きくなってるんだよね」


 エリカは胸を張りプルンと揺らしながら蓮見に見せつける。

 エリカのスレンダーな身体だからこそ、ただでさえ大きい胸が更に大きく見える。

 簡単に言うと出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいるのだ。


 ――ゴクリ


「二人きりだし何なら少しだけ触ってみる?」


 蓮見をからかうエリカ。

 おかげさまで蓮見の心臓がドキドキして血流が良くなり、顔が赤くなる。


「意地悪言わないでください!」


「うふふっ。顔真っ赤にして可愛い」


 このままではエリカにからかわれ続けると思った蓮見は話題を変える事にする。


「それよりなんでさっき手榴弾を手も触れずに爆発させられたんですか?」


「あっ、それ!? 気になるの? いいわよ~なら見て見て。私もさっき気付いたんだけど新しいスキルゲットしたんだ」


 そう言ってエリカはパネルを操作して今ゲットしたスキルを見せる。

 どうやらスキルに関する事は隠すつもりはないらしい。

 きっとそれだけ蓮見の事を信用しているのだろう。


 スキル名は【遠隔操作】で、効果内容は『自分の発明したアイテムを遠隔操作できる。有効効果範囲十五メートル』で習得条件は『自作のアイテムを使い敵プレイヤーもしくはモンスターに三回止めを刺す』だった。


 蓮見もこれは内心欲しいと一瞬思ったが、よくよく考えて見ると自分ではアイテムの制作が出来ないのですぐに諦める事にした。


 それならエリカに教えて貰えばと思うかもしれないが、エリカのように頭でイメージしたアイテムを作るのは意外に難しいのと手間暇と言う面を考えれば面倒、そう言った作業は残念ながら蓮見には向かない。


 あらかじめ石段に設置した手榴弾をピンを抜かずに意図したタイミングで戦闘中に爆発させるエリカは正直とても格好良かった。


「へぇ~とても魅力的なスキルですね」


「ありがとう。これで紅君の力になれるなら私頑張るよ」


 そう言って笑顔を見せてくれるエリカ。


 だけど戦闘が終わるたびに石段に座りと精神的にも肉体的にもやはり疲れている事は見ていたらわかった。


 普段表舞台に出ないエリカにとってはかなりの重労働だと思い何度か拠点の中で休んでいていいと言ったのだがエリカがそれを断ったのだ。


 何でも蓮見だけじゃ心配と言って蓮見の提案を断る所か、自ら進んで足を踏み入れてきた敵プレイヤーを倒しに行っていた。

 どうやらエリカのイベントに対するやる気が身体を動かすらしい。

 だけどそれだけでは最後まで身体が動かない。

 時には休む事も大事である。


 なので美紀達が戻って来るまでの間は頑張ってもらう事にした。

 今下手にエリカのやる気を削いでしまうぐらいなら、今の状況を楽しんでいるみたいだしこのまま好きにさせてあげようと言う蓮見の判断である。


「いえ、エリカさんは今もですけど、いつも俺達の為に頑張ってくれているの知っていますから」


「え? そう? ありがとう。私をここまで褒めてくれる人はリアルでもゲームでも紅君だけよ。お姉さんとても嬉しいわ」


「それは良かったです。俺いつもエリカさんの事見てますから」


「……そっかぁ、ならこれからよろしくね、はすみ」


 急に顔を赤くして、モジモジしながら呟くエリカ。

 最後の方は声が小さすぎて何て言ったかがわからなかった。


「今なんて?」


「何でもないわよ、紅君」


 その後も蓮見がエリカと石段に座って話していると美紀達が帰って来た。



 現在【深紅の美】ギルドは現在四十六位、【ラグナロク】ギルドは一位、【雷撃の閃光】ギルドは二位と猛威を振るっていた。だけど、それでも小規模ギルドだけでみれば【深紅の美】ギルドは断トツで一位だった。


 既に上から五十位までは有力大規模ギルドと中規模ギルドに占拠されている。ただ一つの例外ギルドを除いて。



 そしてそのギルドを捜索しているのは多くのギルド。

 目的は色々あるが、多くは蓮見目当てのプレイヤーが多いのまた事実。



 そして美紀達にすら気配を悟られることなく一人の男が【深紅の美】ギルドの拠点を発見する。


「なるほど、ここか。だが、今は泳がせておくか」


 男は風景に合わせたローブとマスクで顔を隠しながら色々と見ていた。


「うん?」


 美紀がようやく誰かに付けられている気配を感じた時にはもうその男の姿はなかった。

 スキル【隠密行動】。

 それはプレイヤーの視線や殺気と言った物をシステム補助により一定時間相手が感じ取りにくくするスキル。男はそれを使っていた。その為美紀ですら気付かなった。


「どうしたの?」


「あ、いや……何でもない」


 美紀は念の為に周囲に視線を飛ばすがやはり誰もいないし、気配すら感じない。


「私の勘違いだったみたい」


「そっかぁ」


 七瀬にそう言って美紀達は再び石段を登り始めた。

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