第122話 トッププレイヤーの本気


「さてと暴れますか! とりあえず五人は私にHP自動回復とヒールをお願いするわ。後は全部私が相手にするから」


「援護攻撃はなくて大丈夫なのですか?」


「うん。ちょっと暴れたいから」


「わかりました」


 見張り役だった男は流石にそれは無理があるだろうと思ったが、トッププレイヤーはそれぞれ必殺となるスキルや魔法を持っている事が多いのでここは任せる事にした。


 なにより綾香が放つ殺気がとても怖かった。


「スキル『加速』!」


 綾香は迫りくる敵部隊に対して正面から突撃していく。


 そして飛んでくる魔法攻撃を最小限の動きで躱していく。


 そのまま身体は緑色のエフェクトに包まれ、後方支援隊のHP自動回復魔法が付加される。これである程度のダメージは受けてもすぐに回復する。


「スキル『烈風』!」


 あっという間に敵前衛プレイヤーの前まで来た綾香を中心とした竜巻が起きる。


 風に身体が流されないように足腰に力を入れるプレイヤー達。


 だがそれは自分達の動きを制限していることにもなる。


「スキル『連撃』!」


 綾香の双剣が敵を切り裂いていく。


 風で身動きが取れない相手と違い綾香は風を利用して動く。


 これは純粋なPS(プレイヤースキル)で誰でも行う事が可能な技の一つである。


 ただしスキルによる竜巻の風の強さを正確に判断しないとできない高等技術である。


 だが綾香の強さはこんなものではなかった。


 敵を双剣で切り裂き素早くMPゲージを満タンにした綾香は更にスキルを使う。


「スキル『烈風』『フレア』!」


 ようやく収まりだしたと思った竜巻が再び強くなり、今度は綾香の手から出現した炎の塊を吸収し炎嵐が出現する。


 スキルの複合によって炎嵐(ファイヤーテンペスト)は熱の力によって効果範囲内のプレイヤーに敵味方ダメージを与えるスキルである。当然綾香は熱耐性【大】を持っているのでダメージは受けないが、半分近くのプレイヤーはダメージを受けていた。


 どうやら蓮見対策で熱耐性を持っている者が多いらしい。


「あら!? もう慣れたの? いいね、ならかかっておいで!」


 ここで早くも竜巻の風に慣れた者が反撃を始める。


 八人を相手にしながらも綾香は互角に渡り合っていると障壁を展開し炎嵐から身を護った後方部隊が更なる追い打ちをしてくる。


「スキル『加速』!」


 すぐに炎嵐の風を利用して敵から距離を取る。


 だがそれでも全部は避けきれない。


 魔法の幾つかが綾香のHPゲージを四割近く奪う。


 だけど綾香は笑っている。こちらの後方支援部隊がすぐにHPを回復してくれるからだ。


 故に一撃でやられない限りは数秒もあればHPゲージは回復する。

 そして綾香は後方支援部隊の方に敵の目がいかないようにしている。

 現時点で暫定三位の実力を持つ彼女を前にして、彼女を無視出来る者は少ない。

 相手が自分よりかなり格上だとわかっている時、人間は中々それを無視する事は出来ないのだ。


 なぜなら今武器を構え綾香と対峙している者達は全員綾香が放つ見えない威圧的なプレッシャーをその肌で直接感じているからだ。そして綾香のプレッシャーに呑まれた多くの者は普段の力を思うように使えなくなる。


 逆にそれが今度は味方の焦りとなり負の連鎖になると頭が正しく理解していてもだ。


「へぇ~、やるね~」


 綾香はそう言って広範囲に展開を始めた敵の配置を確認していく。


「仕方がない、本気で行くよ」


 そう言って綾香が笑みを向ける。


 それは純粋な子供のように。


 だがそれは敵からしたら恐怖でしかない。


「スキル『加速』『パワーアタック』!」


 次の瞬間、綾香が最速で一番近くにいたプレイヤーの首を切断する。


「――ッ!?」


 仲間が倒され驚いているうちにその者の首から上がすぐに地面に落ちていく。


「スキル『烈風』!」


 後方から飛んでくる魔法を今後は自分を護る為に効果範囲を狭めて竜巻を生み出す。

 そして竜巻の風に巻き込まれた敵の魔法は綾香がいない所へと向かって飛んでいく。


「スキル『アクセル』!」


 更に綾香の移動速度が速くなる。

 敵の攻撃は全て空を切り、綾香の残像を切り始める。


 綾香は美紀とはパラメータを均等に振るのではなくAGIに気持ち寄せて振っている。

 その為、今の綾香はとても速い。


「ほらほら、どこ狙ってるの!?」


 双剣の連続攻撃に次々と倒れていくプレイヤー達。


 後方支援隊を内心は先に倒したい敵プレイヤー。

 だけど綾香がそんな事をさせてくれるとは思えない。背中を見せたらこれ以上に一方的にやられると身体がわかっているからこそ狙えない。だが敵は知らない。綾香が後方支援隊にHPの回復以外はいらないといった事を。故に敵の頭の中はいつ回復魔法から攻撃魔法に切り替えて来るかを警戒し続けれなければならない。だが自分よりかなり強い相手と闘いながら他を気にして勝てるはずがないのもまた事実。


「もういっちょ! スキル『加速』『烈風』!」


 綾香はMPを消費してから次のスキル発動までに回復したMP量に応じてスキルを使うようにしている。その為、基本的には常にMPゲージは半分以下にならないように調整している。これが綾香(強者)の戦い方――常にどんな時も反撃の手段を残しておくことだ。


 そして綾香の足から逃げれた者はおらず、全員が光の粒子となって姿を消した。


「ふぅ~、終わった、終わったぁ~。なら皆帰ろうか」


 そう言って武器をしまい、大きな背伸びをしながら拠点に向かって歩き始める綾香。


 そんな綾香を見て後方支援をしていた者達はこれがトッププレイヤーの本気だと改めて見せつけられた。だがここにいる全員が理解していた。確かに綾香は本気にはなったのかもしれないが、あれでも正真正銘の本気ではないことに。


 防衛に成功した綾香率いる小部隊は【雷撃の閃光】のギルド長ソフィに報告をしてから休憩をとった。


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