第112話 戦場のエリカ
「敵を見つけた場合は、拠点を最優先でいい?」
「えぇ。手加減はなし。邪魔する者は全員倒すわよ」
七瀬が瑠香の後ろに隠れるようにして、フィールドを走りながら返事をする。エリカは何も言わずに二人に付いて行く。
その時、僅かな殺気を瑠香と七瀬が感じ取る。
「エリカさん気をつけてください」
七瀬の言葉にエリカがコクりと頷く。
「お姉ちゃん?」
「わかった。任せるけど、無茶はしないでよ?」
「任せて。絶対に紅さんの名前に傷は入れないから」
七瀬とエリカが周囲を警戒してその場で待機する。
そして瑠香が単騎で森の茂みから殺意を隠し切れていないプレイヤー達に襲い掛かる。
瑠香が見つけた八人のプレイヤー達は、瑠香達と同じく森の茂みを利用しながら敵拠点を攻略しに向かった者達だった。
小柄な身体を活かし、森の茂みを利用しながら瑠香が近づく。
――敵は八。男五人は近接、女三人は魔法。ならば。
瑠香の接近に気付かない八人は絶対に拠点を見つけてやると意気込んでいるのか殺気が駄々洩れの割には隙だらけで奇襲をするには持って来いだった。
そのまま一人はレイピアだけで倒せると確信した。
そして最短ルートで背後から心臓を刺しに行く。
「ガハッ!?」
男の一人が持っていた武器を落とし、光の粒子となって消えていく。
突然の事に戸惑う七人。
瑠香はすぐにレイピアを構え追撃する。
レイピアの連撃に更に二人の男が倒れる。
ここでようやく状況を理解したのか、残りの男達が反撃をしてくる。
そして三人の女が杖を構える。
これでは分が悪いと判断した瑠香は攻撃を止めて、徐々に後退を始める。
これなら何とかなると勘違いした五人がそのまま瑠香を追い詰めるように進軍する。その先には七瀬とエリカがいるとは知らずに。
後少しで合流できるかと思った時、相手の動きを読み間違えたらしく五人に囲まれしまう。だが瑠香が心配になって様子を見に来た二人によって状況は好転する。
「お嬢ちゃん悪いがここまで……グハッ!?」
「人の妹に手を出すな! この暴漢!」
男の一人が瑠香を追い込んだと思い油断した瞬間の出来事だった。
七瀬の発動した水手裏剣が男の背中に五枚命中する。そして男の意識が後方に向いた瞬間今度はエリカの一撃が決まる。
「悪いわね。常連さんとは言え、勝負は勝負よ」
エリカを見て、残り四人となったパーティーがある事に気付く。
第三回イベントにおいてたった五人でありながら、大規模ギルドや有力ギルドから警戒をされているギルドメンバーに自分達は手を出したのだと。
「やっ……べぇ……エリカがいるって事は!」
全員の表情に余裕がなくなる。
彼女達に手を出す、つまりそれはあの【神眼の天災】と里美に遠まわしに喧嘩を売る事と変わらない。
「マイケル! 撤退よ」
そう言って逃げ出そうとする三人の女性プレイヤー。
だが、瑠香とエリカが三人の逃げ道をふさぐ。
そして魔法を使われる前にレイピアと剣が女性プレイヤーの首を容赦なく貫き、切断する。
残りの一人が慌てて魔法を使うが七瀬の発動した『導きの盾』によって防がれてしまう。
瑠香とエリカがその間に女性プレイヤーの両サイドに回り込み挟撃をする。
「悪いわね、こっちも負けてられないのよ」
「エリカさんお見事です」
二人が光の粒子となった三人の女性プレイヤーに呟く。
七瀬は二人が敵を倒している間に男性プレイヤーの攻撃を杖を使って受け流していた。
男の力任せの斧による攻撃。
パワーはあるがスピードはない。
よって七瀬には余裕があった。
そして魔法使いでありながら持っていた杖で反撃して、MPの回復と同時に敵の戦意を削いでいく。
「……クソッ!」
そして男が攻撃が通らない事にイライラし大ぶりをしたところでエリカが背後から近くに落ちていた木の棒で思いっきり頭に殴りかかる。
その光景に思わず、七瀬と瑠香が目を逸らす。
男は頭を強打しフラフラしている。
そんな男に対してエリカはアイテムツリーから取り出した手榴弾を右手に持って近づく。
「いつも私のお店に来てくれてありがとう。それで拠点は何処にあるの?」
「……言うわけないだろ、エリカ」
「そう、ならこれ食べてお別れになるかしらね?」
男は頭を抑えながらエリカが手に持っていた物を見て、血の気が引いたのか顔が真っ青になる。さっきの一撃でまともに動けない男。逃げる事もままならず、全てはエリカのさじ加減一つだと知る。
七瀬は慌てて瑠香の視界を遮るように目に手を当てる。
「ルナは見ちゃダメ!」
七瀬は人事非道のエリカにここは任せる事にする。
(あの人お金と紅が絡むとたまに性格が歪むのよね……。でも本人の前では絶対にボロ出さないんだよな……)
満面の笑みで言うエリカに男が口を割る。
流石に人事非道の死に方は嫌だったらしい。
だがこの時、男は考えもしなかった。
愛の力は時として人を変えるだけでなく、好きな人に影響を受け何をするかわからない。
故にギルドメンバーを過信した末路を。
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