第十二章 男一人・女四人で立ち向かえ
第109話 手のひら返し
第三回イベントに向けて、【深紅の美】ギルドは最終確認をするため、ギルドホームに集まっていた。七瀬の妹の瑠香の加入により、戦力が強化された為である。幸い本日は金曜日の夜と言う事もあり全員集まる事が出来た。
紅と美紀は拠点防衛。
七瀬と瑠香が攻撃。
エリカは状況に合わせて四人のサポートと言う形に決まった。
またエリカの発明品により、ギルドメンバー全員は味方である天災様による二次被害を防ぐ為に発熱耐性【大】と毒耐性【大】を装備品で付加させていた。
最強夫婦を正面から突破する事はトッププレイヤー以外には無理だろうと言う判断は一人を除いて皆同じ意見だった。
「拠点はどうしましょう?」
「そこは私に任せなさい、ミズナ」
「エリカさん?」
「実はさっき1000万ゴールドを寄付しておいたわ」
ドヤ顔でエリカが自慢げに言ってくる。
拠点の耐久値は今皆がいる拠点のステータスがイベント拠点にも反映される。
七瀬はその事を不安に思っていたが、どうやらそれも奇遇に終わった。
普通であれば100万ゴールドですら貯めるのはかなり難しいのだが、【神眼の天災】がピッケル最強説を作った日に手に入れた宝石の数々とエリカの悪知恵が合わさる事で不可能を可能にしていたのだ。
美紀が試しにギルドホームのステータスを見る。
「えっと……プレイヤー補助でSTRとVIX1%強化。イベント拠点VIX5%向上」
「普通中規模ギルドですらVIXは3%だと聞いています。それを考えれば極振りとは言えかなり凄いですね」
「ルナの言う通りです。……にしてもエリカさん何で極振りにしたんですか?」
「そうよ。私達を強化した方が普通にお得よ。なんたってこっちは少数。私達が死ねば拠点もだけど、紅を護る人間がいなくなる。それに攻撃手段も失うのよ?」
美紀はすぐに七瀬の言葉に付け加えた。
全ての拠点を失っても負け、蓮見を守れなくなっても負け、攻撃の手段を失っても負け……と普通に考えたら数多くある負ける可能性を一つでも少なくする方が優先なのではと考えていた。もっと言えば七瀬と瑠香ならば小規模ギルド程度なら二人でも余裕で落とせるだろう。ならばまずは負けない為にも美紀が紅を護り、拠点がなくなる前に新しい拠点を七瀬と瑠香に制圧してもらう事が勝利への道と考えていた。それは七瀬と瑠香も同じなのか二人も疑問に満ちた目でエリカを見る。
「え? ここを防衛するって事は拠点の近くで誰かさんが暴れる可能性があるのよ? 自分達ですら手懐けられない私の紅君が暴れて拠点が無傷で済むと?」
エリカは忘れていなかった。
自分が好きになった男がどうゆう人間なのかを。
そして何故今も好きでいるのかを。
その言葉に何故エリカがプレイヤー強化ではなく拠点強化に力を入れたのかがわかった。
「「「…………!?」」」
だが蓮見だけはその事に気がつかない。
蓮見の頭の中はいつもの戦い方が普通であって、美紀の戦い方が熟練者の戦い方だと認識している。
逆に美紀の頭の中は自分が普通であって、蓮見の戦い方はでたらめ過ぎて誰も対処ができない戦い方だと認識している。
敵となるプレイヤーやエリカ達ギルドメンバーも当然美紀と同じ考えを持っている。
「って誰が私の紅君よ! 紅は渡さないって何度も言ってるでしょ!」
「あ~里美が怒った~。紅君こわいよ~」
そう言って隣にいた紅に抱き着くエリカ。
それを引き剝がそうと必死な美紀。
「ちょ、エリカさん?」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。欲望に素直になりなさい、紅君」
そのまま紅の手を掴み、自分の手を絡ませてくるエリカ。
蓮見の心臓が不覚にも反応してしまう。
「バカ! 早く離れて。後、ニヤニヤするな!」
「えぇ~いいじゃない。たまにはいいわよね、紅君?」
「…………」
美紀の鋭い視線とエリカの甘い誘惑の視線に蓮見は答えたくても答えられなかった。
どちらかを取ればどちらかの怒りを買う、そんな気がしたからだ。
七瀬と瑠香に助けを求めると二人はすぐに蓮見から視線を逸らして見捨てる。
二人はこの争いには入りたくないのか、助け船すら出してくれない。
「あぁ~、里美のいじわるぅ~」
「急に甘えん坊キャラにならない! 今までお姉さんキャラでいたんだったら最後までお姉さんでいて!」
「好きな男性の前ではギャップが大事なの。だからこうやってたまには隙だらけの姿を見せてあげないと紅君だって私に手を出しづらいでしょ?」
「だから、さり気なくそのいやらしい胸を押し付けて甘えるな。それに紅もエリカを受け入れない!」
そう言って再び紅に抱きつこうとするエリカの身体を強引に手で引っ張って元の場所に戻す美紀。
顔を真っ赤にした美紀はこのままでは話し合い以前にエリカに蓮見が取られると思い焦っていた。
「まぁ、まぁ、そう言わないの。紅君が困ってるわよ」
そう言って素直に元居た場所に戻るエリカ。
エリカは美紀と違って徐々に時間を掛けて落とせばいいと考えているのでそこまで慌てていない。ただ定期的に少しずつ蓮見の心を揺れ動かしていけばいいと考えている。そして蓮見は隠しているつもりだろうが、先程甘えた時に微かに蓮見の頬が赤くなったことを見逃さなかった。小さい変化ではあったが恋に初心な蓮見の心は今は美紀だけの物ではない事を確信していた。
「そ、そうよ、里美。とりあえず今は本題を話しましょう。エリカさんもその間は大人しくしててください」
「わかった」
「は~い」
「お姉ちゃんナイス!」
「うん」
その後拠点をどうやって防衛していくのか、攻撃対象となる相手ギルド候補は何処なのかを蓮見、美紀、エリカ、七瀬、瑠香の五人で話しあった。
その後、各々最終調整を踏まえて七瀬と瑠香は楽園の泉にへと行き連携のタイミングを取る練習。
美紀はやはり戦闘となった時の為にエリカの最終調整をする為、二人で闘技場。
蓮見は一人の方が絶対いいと言われ、とぼとぼと一人寂しくフィールドの中を歩く。
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