第107話 心の傷を抉らないで
「あっ! あそこ行く!」
そう言って今度は蓮見の手を引っ張ってアクセサリーショップに入っていく美紀。
お店の中には安い物から高い物、更には指輪、ネックレス、ピアス……etcと沢山の種類の商品がガラスケースに入って展示されていた。
蓮見が美紀を見ると、目をキラキラさせてガラスケースの中を覗き込んでいる。
「やっぱり美紀も女の子なんだな」
蓮見が呟いていると、美紀が手招きをしてきたので隣まで行く。
「ねぇこれ、綺麗じゃない?」
「おぉー確かにこれは綺麗だ」
「私に似合うかな?」
「う~ん、美紀なら何でも似合いそうだけど」
「むぅ~、そうゆう意味じゃないよ……あっ! これは、蓮見に似合いそう」
美紀は蓮見をチラチラと見て、そう呟いた。
蓮見と美紀が今見てるのはシルバー制のネックレスである。
どうやら美紀はネックレスに興味があるらしい。
それから二人はしばらく店内を見て回った。
途中見る事に夢中になっていた蓮見は美紀とはぐれてしまったが、すぐに合流する事が出来た。
それから文房具店、再び別の服屋さんに立ち寄り少し疲れたので二人は今ショッピングセンターに用意された休憩室でゆっくり休んでいる。それに合わせて蓮見が持つ紙袋は気付けば6つに増えていた。休憩室と言っても丸テーブルに対面になるように配置された椅子が2つあるだけの簡易的な作りではあるが。
「美味しいねぇ」
「うん。美紀ありがとうな」
「全然いいよ~」
蓮見は今美紀に買って貰ったタピオカのミルクティーを飲んでいる。最初はお金を出すつもりだったが荷物持ち代として美紀が出してくれたのだ。
美紀がタピオカが入ったミルクティーを飲みながら言う。
「ちなみに後はアロマ商品を扱ってるお店に行きたいと考えてます!」
「うん、別に良いけど。アロマ好きだったの?」
「好きだよ。後はお香とかも好き」
「へぇ~」
蓮見は初めて知った美紀の趣味に少し驚いた。
だが言われてみれば美紀が蓮見の家に来ることは合っても、その逆は今まで一度もなかったのでまぁ無理もないかとすぐに納得する。
でも最近はアロマセラピーとか言う物が蓮見の学校でも流行っているので、その辺の流行に蓮見が乗れてないだけの気もしなくもなかった。
「今ここだから、私の行きたいお店はここにあるよ」
美紀はいつの間にかショッピングセンターの全体図がのった小さいガイドブックをショルダーバッグから出して、蓮見に見せてくる。
そしてここのお店にはこんなのが合ってと丁寧に説明をしてくれた。
それで美紀が生きたいお店の説明になった時に、アロマやお香には気持ちをリラックさせてくれる効果がある事がわかった。
「へぇ~、アロマってただいい匂いがするってだけじゃないんだな」
「そうだよ! なんなら今度私の部屋においでよ。多分心が安らぐと思うよ?」
「お誘いは嬉しいけど、止めておくよ。流石に男一人で行くわけには……」
「蓮見ならいいよ。ってか今さら何を言ってるのよ。別に二人きりになった所でチキンで根性なしの蓮見が私に何かできるわけないでしょ?」
――グサッ!!!
蓮見の心が美紀の一言によって大きなダメージを受けてしまった。
その言葉に反論したくても、自覚があるからこそ反論は出来ず。
嘘をついて誤魔化そうにも、すぐにバレる気しかせず。
「…………ぅ!」
「あれぇ~今まで一緒にお泊りして私に手を出す機会が沢山あったのに、実は違いましたなんて言えちゃうのかなぁ~は・す・み・く・ん!?」
心の傷に苦しむ蓮見を見て、ニヤニヤしながら上から目線の美紀。
その様子はこの状況を心の底から楽しんでいるようにしか見えない。
そして蓮見の表情が苦痛の物へと変わっていく。
「それに最近は私をただの幼馴染ではなく女の子――つまり異性として見てくれてるのよね? ん~……って事は、やっぱりチキンで根性なしなんじゃないかな!?」
――グサッ、グサッ、グサッ!!!
「そ、それは……」
「その割には私に好きな人がいるって知ったら、大泣きしたのは何処の誰だったかな?」
「……ッ!?」
「それに涙で私の母性本能を刺激して……私のファーストキスを強引に私の意思に反して無理やり奪ったのって誰だっけ?」
ニヤリと笑い、余裕の笑みを見せる美紀。
――グサッ、グサッ、グサッ、グサッ、グサッ!!!
「そっ、それは」
「ねぇ、はすみぃ~、誰だっけ?」
「あ、いや……あれは……」
言葉が思うように出てこない蓮見。
「私最近物忘れが激しいから教えてくれないかなぁ~、ねぇ~はすみぃお願い?」
「……もう勘弁してください。私の完敗です。美紀様」
テーブルに頭を付けて反論する事を完璧に諦めた蓮見。
ぐったりとショッピングの疲れとは別の疲れにぐだぁ~とした蓮見を見て美紀が面白半分で頭を指でツンツンしてくる。
「素直だね。なら全部認めるんだよね?」
「……はい」
「なら私の部屋にも来てくれる?」
「……はい、喜んで」
返事をするのが精一杯なぐらいに美紀にエネルギーを持っていかれた蓮見に選択肢は一つしかなかった。
この状態では第二ラウンドを戦う気力はもうないわけで。
「よし。なら約束ね」
「……はい」
――――――……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます