第103話 蓮見には無縁、夜のイベント


 夜のギルド前は人が少なく、何処か新鮮だった。

 現実世界とあまり変わらない。

 大きく息を吸うと、お昼とは違った何処か清々しい気持ちになった。

 そのまま周りを見渡すが美紀がいない事に蓮見が気付く。


「あれ? ……これはもしや……俺が早速迷子になったとか」


 急いで視線を周囲に泳がせて慌てて美紀を探すと、少し離れた所で男女が話しているのが目に見えた。少し気になったので近くに近づいて見ると男はイケメン&長身更にはカッコイイ白竜をモチーフとした装備で身なりを決めていた。


「カッコいい……あの装備……俺も欲しい……」


 と蓮見ポロリと心の声が漏れる。


「だから、私これから用事があるの。それに先約もいるから無理だって何度も言ってるでしょ」


 そして、強引に手を掴まれ困った様子の美紀。

 ここは助けるべきか迷ったが、美紀が負けるとは到底思えなかったのでソッと見守る事にした。下手に出て行って巻き沿いを喰らうのは嫌だったから。


「いいじゃん。あっ俺、これでも強いよ。だからちょっとぐらい付き合ってよ」


「嫌に決まってるでしょ! なんであんたと一緒にフィールドに出ないといけないのよ」


「そんなの君が可愛いからに決まってるじゃん」


「私はあんなたには興味がないから早く離して!」

 なる程。

 これがナンパと呼ばれる物で身なり以前に容姿が平凡な蓮見には無縁の奴かと冷静に状況を把握する。

 容姿がとても可愛い美紀だからこそ起きる物なのだと一人納得していると、美紀と視線が重なる。


「こら! 見てるんだったら早く助けてよ!」


「えっ……助けいるの?」


「この状況で天然はいいから、早く!」


「あっ、うん」

(その気になれば俺より強いのに……?)

 蓮見は二人の元に近づくと男が強引に掴んでいた美紀の腕を離して、蓮見に近づいてくる。男は蓮見より背丈が高く、見下ろしながら威圧的に言う。現実の世界でもゲームの世界も夜の街にはこの手の人間が必ずいるんだなと学習する蓮見。


「あぁ~! てめぇ何者だ!? 怪我したくなかったら下がってろ!」


「何って、俺の女に手を出すな、雑魚が!」

 先に言っておくと、蓮見はまだ何も答えていない。


「なんだと、てめぇ~。良い度胸じゃねぇか。こうなったら勝負してやろうじゃねぇか。てめぇが負けたら大人しく彼女を渡しな」


「えぇ、いいわよ。ただし負けたらわたっ……俺達に手を出すな、残念ナルシスト!」


「上等だぁ!」


「ちょっと、里美様……?」

 今美紀は蓮見の背中に身を隠すようしている。

 そして、男の質問に蓮見ではなく美紀が全て答えていた。


「うわぁ~ん。私この男に犯されるかと思って怖かったよ……グズグズ」

 そう言って蓮見の胸の中で嘘泣きを始める美紀。


「いい? 必ずあいつをボコボコにして来て。私に手を出そうなんて百年早いんだから。わかったら頭を撫でる」

 嘘泣きをしながら蓮見だけに呟く、美紀。

 内心とても怒っているのだなと察する、蓮見。

 蓮見は頭を撫でて、嘘なきしている美紀を慰める振りをする。

 そのまま三人は決闘の為にすぐ近くにあるギルド前広場に移動した。


『白馬の王子様の挑戦を受託しますか? YES/NO』

 名前が中二病だと思いながらも、蓮見は『YES』を選択する。


 今は嘘泣きを止めた美紀が蓮見の名前を言って応援してくれている。

 遠まわしに『頑張ってー』が『必ず倒してこい』と言う意味な気がしてならない蓮見は覚悟を決める事にする。これも美紀と一緒にゲームをしていく中で必要な事だと思い。


「今なら棄権を認めてやらんこともないが、さてどうする?」


「大丈夫です。それより少々本気で行きますので覚悟してください」

 蓮見にとっては経緯はどうあれ貴重な対人戦闘。

 どうせやるなら第三回イベントに向けて切り札は使わないとしても新装備の俊足シリーズに慣れるのと対人戦闘経験の獲得と二重の意味で意味あるものにしたかったのだ。


 蓮見の真剣な表情に男が余裕の笑みで言う。


「そうか。ならこっちも女が掛かっている以上、本気で行くぜ!」


 空中に出現した数字がカウントダウンを始める。

 そして試合開始の音を鳴らして消える。


 男は白い槍を構え、大きくジャンプして襲い掛かってくる。

「悪いが、一気に勝負を決めさせてもらうぜ! スキル『連撃』!」

 槍が白いエフェクトを放ち鋭い突きを繰り出す。

 蓮見と男の距離は後三メートル。

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