第85話 絶対にエリカなんかに横取りさせない




 ――美紀、部屋にて。

 蓮見が部屋の電気を消しようやく眠りに入る頃、美紀はベッドの中でまだ自分の心臓が破裂しそうになるのでないかと思ってしまう程、


 ドクン、ドクン、ドクン!!!!!


 と心臓が鼓動している事を感じていた。

 なんであんなに恥ずかしくも大胆な行動に出てしまったかと思うとつい死にたくなるほど後悔しかなかった。あれでは自分が幼馴染である蓮見をずっと前から異性として見ていて好きだったみたいではないか。

 事実そうなのだが、わざわざ今日それをあんな大胆な行動で示す必要があったのかというわけで。


「あぁ~私のばかばかばかばかばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」


 布団の中で暴れ、少しでも気持ちを紛らせようと必死な美紀。

 さっきはその場の勢いで何とか逃げれたが、明日からどう顔を合わせればいいのかと考えると更に頭が働いて眠れなくなる。今まで十年以上我慢していたからこそ、初めてのキスは死ぬほど恥ずかしくて、それと同じぐらいに嬉しくてドキドキした。だけど、強引な女だと思われ嫌われなかったかな、もしかしたら迷惑だったんじゃないかな、と色々とネガティブな思考も入り混じる結果となってしまった。


「あぁ~もぉ! エリカが蓮見を好きとか言うからよ!!!」

 枕に顔を埋めて、思いっ切り叫ぶ美紀。

 先日ギルドホームで女子会をしたときに、エリカが言った一言のせいで美紀は焦りを覚えていた。同じ女として蓮見を狙っていると知った時は内心かなり驚いた。今まで蓮見が女子からモテる事はあまりなかった。だからいつまでも蓮見は隣に居てくれると思っていたのだがエリカの登場に美紀は内心慌てていたのだ。


 簡単に言うならば蓮見をかけた女と女の戦いである。


 エリカは美紀が蓮見を好きだと知っており、恋のライバルと認めているためか、蓮見に積極的な一面が特に最近は多くみられる。そのたびに蓮見の心が揺れ動いている事も何となくわかる。これでも幼馴染。だからこそ不安になってしまう。


 目に見えない恋愛バトルは第三回イベントより美紀にとっては大事なのは当たり前のことで、今までは恥ずかしかったり素直になれなくて素っ気ない態度を取っていたがそんな事をして恋の駆け引きを楽しんでいる時間はなくなった。今美紀の頭の中は蓮見の事で一杯なのだ。エリカに心が揺れ動いたと思えば、恥ずかしくても自分を見てもらえるように仕向けたりと今はそれを考える事だけで精一杯。


「てか、蓮見のばかぁ! エリカにほっぺにキスされたぐらいで心持っていかれないでよ!」


 当然エリカもあの日の女子会で美紀に負けないようにと、見せつけるように色々と言ってきているので全て知っている。なので美紀は美紀で反撃をしたのだが、大人の余裕を見せつけるようにエリカは終始余裕の笑みを見せていた。ちなみに三人は蓮見には内緒で連絡先を交換してリアルでも繋がっている。その為エリカがいつ蓮見にリアルでも手を出し見せつけてくるかと思えば恐ろしいくてしょうがない。なので美紀としては今の内にちょっとでも蓮見の胃袋ではなく心を掴んで振り向かせないといけないのだ。


「こっちは十年以上片想いしてるんだからね。絶対にエリカなんかに横取りさせない!」


 窓の外に視線を向けて、力強く宣言する美紀。


「そりゃわかってるわよ。青くて長い髪はとても綺麗だし、胸だって私と変わらないし大人びていて綺麗な人にあんな事されたら心が揺れ動くことぐらい……。でも蓮見と過ごした時間だけは絶対に誰にも負けないんだから」

 ブツブツと心の不安を掻き消すように言葉を紡ぎながら先程蹴り飛ばした掛け布団を拾い、元に戻してからもう一度お布団に入る。


 するとスマートフォンがバイブレーションする。

 美紀はそのまま枕元にあるスマートフォンを手に取り画面を確認する。

 噂をすれば。

 美紀は一度大きくため息を吐いてから電話に出る。

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