第63話 いざテスト!


 それからHRが終わり、始業式が無事に終わった。



 「なら、明日は小テストするから、各自今日配布した答えで勉強しておくように。ちなみに今回収した宿題をしてない人は明日テスト終わりで放課後解く事になるから覚悟しておくように」

 担任の先生の声に、クラスの一部の生徒が悲鳴をあげる。

 どうやら宿題をせずに提出した生徒がいるみたいだ。


「バカだな……。宿題ぐらいちゃんとしておけよ」


 その一言に隣の席の生徒から鋭く冷たい視線が向けられる。

 蓮見は思わず、すぐに口を閉じる事にした。

 美紀がいなければ蓮見もあの一員に間違いなくなっていたと思うと頭が上がらなかった。


「なら今日はもう終わりだから皆気を付けて帰ってね~」

 そう言って担任の先生はクラスを出ていく。


 美紀がクラスの女子達とお別れの挨拶をしている隙に蓮見は手早く帰る為の準備をして席を離れる。このままではクラスの男子達から何を言われるかわかったもんじゃないからだ。別に仲がいい男子はいい。事情を知っているからだ。問題はそうじゃない男子だ。


 廊下を歩き、階段を降りて下駄箱に向かっていると蓮見を呼ぶ声が聞こえてくる。

 思わず、身体がビクッと反応する。

 恐る恐る振り返って見ると、そこには小走りで蓮見を追いかけてきた美紀がいた。


「ちょっと、おいてかないでよ」

「あぁ……悪い」

「もぉ~、朝は蓮見が起きるの遅いし遅刻するかもだから仕方なく一人で来たのよ。でも帰りはその心配もないし一緒に帰ろ」

「うっ、うん。そうだな」


 それから二人は仲良く並んで歩いて学校を出ていく。


 さっきからすれ違う男子の目が痛いのは何かの気のせいだと思いながら蓮見は歩いていると美紀と目が合った。


 下校途中の帰宅路にて美紀が笑みを向けてくる。

 一緒に帰れることが嬉しいのか、いつもより声のトーンが少し高かった。

「私を見て、どうしたの?」

「いや、今日の美紀って元気がいいなって」

「そうかな? あっ、でもこうやって二人で帰るのは初めてだから少しドキドキはしてるよ。ずっと憧れてたから」

「んっ?」

「ほらよくあるじゃない。アニメや小説で幼馴染の二人が一緒に帰るシーン。あれよ、あれ」


 そう言われて蓮見は納得する。

 アニメや小説だとそこに恋愛感情などが入って来て、見ているだけで胸がドキドキするやつだ。蓮見が好きなアニメの一つにもそう言ったシーンが合った。小学生の時に美紀の家で一緒に見て色々と思い出のあるアニメでもある。


「ちなみに明日の小テストが終わるまでゲームはさせないから。だから今日は私と二人でテスト勉強よ」


 昔の思い出を懐かしんでいると、現実を突き付けてくる美紀の言葉に蓮見が苦笑いをする。流石幼馴染である。テストに対して何処か天狗になっている蓮見をしっかりと制御してくるあたりが最早幼馴染と言うよりかは彼女か奥さん並みに手慣れている美紀。


「私とのお勉強は嫌?」


 更に追い打ちをかけるように蓮見の正面に来て上目遣いで見てくる美紀。

 そんな美紀を見て、つい可愛いと思ってしまった蓮見に選択肢はもう残っていなかった。


「……嫌じゃありません」

「なら良かった。ほらなら早く帰りましょ。今日は気合い入れてするわよ!」


 そう言って一人足早に帰る美紀。


「……はぁ。美紀って昔はもっと大人しかった気がするけど……これもゲームの影響なのかね……」

 蓮見はそんな何処か嬉しそうな美紀の背中を追いかける形で帰宅した。


 それから甘い展開は一切なかった。

 一問でも間違えれば美紀から注意され正しい解答が自力で出せるまで何度も何度も問題を解かされた。

 それは、それは、とても、とても、とても長い時間……。

 その結果、美紀が気合いを入れて小テスト対策として作ってくれた問題よりも簡単な小テストなど脅威にすらならなかった。ただし、テスト中冷や汗をかいてしまう程の無言の圧を隣から感じていたのは蓮見だけの秘密だった。

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