第61話 美紀様まだ帰らないで
「うん。そうだね。ならここは?」
「えっと……こう?」
「あっ、違うよ。でも惜しいね。ここはこうして……こうだよ。やってみて」
「うん」
学校の先生が見たら驚くべき正解率で春休みの宿題を完成させていく蓮見。それは学年主席達に匹敵する解答率なわけで、春休み明けに配布される答え等最早必要ないと言っても過言ではない。
蓮見や美紀が通う青空高校は何だかんだ私立高校ではあるが進学校である。その為偏差値も六十近くと頭が皆いい。当時、塾に通い受験対策だけをずっとしていた蓮見は受験の雰囲気を経験する為だけに青空高校を受験したら奇跡的に合格してしまった。それを母親が美紀のお母さんに言ったら美紀が「なら一緒の学校に行く!」と言い出したのが事の始まり。そうして二人は晴れて同じ学校に通う事になったのだ。何でも今年は受験者の人数が少なくボーダーラインが例年に比べるとかなり低かったと校内では噂がある。当然特待生の美紀の場合、合格していた公立高校でも青空高校でもどちらでも学費は掛からないので家計への負担は変わらなかったので当時美紀のお母さんは何も文句を言わなかったらしい。
「これで合ってる?」
「うん。さすが蓮見、やればできるじゃん!」
ヨシヨシと頭を撫でてくれる美紀に照れくさくなったしまった。
「あら、顔赤くなって可愛いね」
「うっ、うるさいな……でも美紀ありがとう。おかげで宿題終わったよ」
「うん。いいよ。それに約束だからね。なら夜ご飯食べよっか?」
蓮見が窓の外に目を向ければ太陽が沈み、月明かりが部屋に入っていた。
さらに気付けば部屋の電気が付いていた。
きっと美紀が気を利かせて付けてくれたのだろう。
「あぁ……って今日は母さんいるから大丈夫」
「本当にいいの? なら私作らないよ?」
勉強で疲れた頭が違和感を覚える。
美紀が首を傾げる理由を考えて見るが、特に思い当たる節はない。
「一つ聞いていいか?」
「いいよ~」
「美紀のお母さん今どこにいるの?」
「家だよ」
その言葉に蓮見が安堵する。
「なら俺の母さんは今日飲みに行ってないはずだ」
「そうだね~」
「なら今日はいいよ。ちょっと喉渇いたからリビング行ってくる」
蓮見は椅子から立ち上がり、部屋を出ていく。
そのまま階段を降りようとしたとき美紀の声が聞こえてくる。
「今日蓮見のお母さん仕事で帰り遅くなるってよ」
「えっ?」
予想していなかった一言に蓮見の脚が階段を踏み外す。
そして、一人の少年が階段から転げ落ちる音が家に響いた。
身体を擦って目から涙をこぼす蓮見を見に来た美紀が階段の上から声をかける。
「あらまぁ……そんなに慌てて大丈夫?」
「これで大丈夫に見えるんなら病院に行け!」
「そんなに声だせるなら大丈夫そうだし、私帰るね」
そう言って普段ならあり得ない帰り道で自分の部屋に戻ろうとする美紀を慌てて呼び止める。
「あっ、待ってください。美紀様!」
「えぇ~どうしよかなぁ~。私もういらないって蓮見様がさっき言ったもんなぁ~」
「昨日散々人をからかっておきながら……それはないだろ! お願いします美紀様。ご飯を作ってから帰って下さい!」
すると、可愛らしく頬を少し膨らませた美紀が姿を見せる。
そして階段を降りてくる。
その時にスカートの中がチラリと見えた。
(昨日見たブラと同じで黒か……悪くない……)
蓮見が視線を美紀に向けると声が聞こえてくる。
「わかったわよ。作ってあげるわよ。それで何がいいの?」
「ならトンカツ定食!」
「はぁ~、また面倒な物を選ぶわね。まぁいいわ。蓮見今日勉強頑張ったもんね。部屋にいていいよ。時間が掛かるから出来たら持っていく」
「わかった。美紀ありがとう」
蓮見はそのままお礼を言ってからリビングで水分補給をしてから自室に戻る。
自室に戻った蓮見は美紀が来るまでの間、美紀と一緒に解いた問題の復習をして待つことにした。
しばらくすると、蓮見の部屋に料理を持って美紀がやって来る。
「お待たせ~。って偉いじゃん蓮見! なら邪魔したら悪いからここにご飯置いておくね」
「うん。悪いな」
「は~い。じゃあね」
そう言って窓から飛び出して自分の部屋に帰っていく美紀。
それからしばらくしてキリがいいところまで勉強した蓮見は美紀が作ってくれたご飯を食べて、お風呂に入り今日は一人で深い眠りに入った。
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