CHAIN_86 雪原をゆく
プレイヤーたちに居場所を聞いていくと城壁の上にいることが分かり、鎖を使って登ると遠くを見据えるカイがいた。彼は背後のツナグに気づく。
「なんだ、お前か。もう出発したものと思ってたが」
「その前に話が。傍若無人連盟のメンバーについて」
ツナグがそう言うとカイは眉を上げた。
「入る気になってくれたのか?」
「いえ、傍若無人連盟のメンバーが他のプレイヤーに乱暴してるところを見てしまって。カイさんからそういう行為はやめるように強く言ってもらえれば」
「なぜだ。それが俺たちのスタンスだが」
当然、カイは意に介さない。
「そう言うと思ってましたけど。もしいない間に同じようなことがあったら俺は騎士道連盟に付きます」
「敵対するということか?」カイの目が急に険しくなる。
「状況によっては」ツナグは物怖じしない。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙の時が流れる。そして、
「……はッ、ビクともしねえ。肝が据わった野郎だ」
先に折れたのはカイだった。面倒臭いやつに出会ってしまったと言いそうな顔で鼻息を漏らした。
ダイナとの関わりでさらに度胸が付いたと実感するツナグだった。
「あとで指示しておく。だが約束はできない。やるやつはどうあってもやるからな。それでいいな?」
「ありがとうございます」
それで徹底されるかどうかは定かではないがツナグはとりあえず礼を言った。彼にも組織の長としての意地がある。これ以上の譲歩は無理だと雰囲気から察した。
「その代わり、こちらからも言うことがある。あの女、マリアのことは信用するな。それからコージもだ」
「……コージも?」
「ああ。あの男は頭が切れる。あえて中立を気取り、大衆心理に寄り添うそぶりを見せることで自分に都合の良い展開へ誘導している節がある。事実、やつは連盟のメンバーに色々と吹き込んで回っている。そのせいで組織としての境界が曖昧になった」
マリアの話に通じるようなことを言われてツナグは困惑した。そのあと煮え切らない気持ちのまま広間に戻ると、エルマとコージが待っていた。
「準備はできたか?」あのコージが問う。
「ああ、行こう」平静を装ってツナグは答えた。
「頑張っていきましょー!」
そんなエルマの無邪気さはツナグの中のわだかまりを少しばかり溶かした。
§§§
一行は雪原エリアへと出発。銀狼に変身したコージがその背にツナグとエルマを乗せて疾走する。
入り組んだ地形や段差も何のその。華麗なステップで身をひるがえして最短距離を駆け抜けていく。背上の二人は振り落とされないようにしっかりと掴んで体勢を維持している。
「もうすぐだ……!」
コージが白い息を吐く。まだエリアの境目を越えていないというのに雪が振りだした。不思議なものでその温度は感じないのに何かが肌に触れたという感覚だけが残る。
「わあ、ここだけ冬だ」
空を見上げてエルマの顔が綻ぶ。結局のところ服を修復できなかったのでちょっと恥ずかしい姿のまま。現実世界だったら凍えているところだ。
銀狼は境目を越えて降り積もった雪に足を踏み入れる。圧迫された雪がギュッと鳴ってから一度立ち止まった。
「さあて、どの方角へ行くか」
一面の銀世界。試しにマップを起動してみるもやはり上手く機能しない。
「私が案内するわ。エコーを飛ばしながら現在地を予測すれば目的地まで迷子にはならないはずよ」
「コージ。俺が指示を出してもいいか?」リンから受け取ったツナグがそれを声にする。
「構わないが。何か知ってるのか?」
「いや、なんとなく」
「分かった。どちらにせよ探索が目的だからな」
コージはうなずいてツナグの指示に従った。
視界不良の道中も三人は目を凝らす。敵からの奇襲を未然に防ぐためだ。もしそこに生き残っているプレイヤーがいれば救助もする。
「――待って」突然リンが声を出して、
「――待て」コージが身をかがめた。
上空を飛ぶマインドイーターの群れ。小規模だが見つかれば非常に面倒。
「ツナグ。しらみ潰しにあたるのは得策じゃないわ。できるだけ避けていきましょ」
ツナグもリンと同意見。全て倒していてはきりがない。
「やり過ごそう」ツナグは小声で言った。
「二人とも。俺の腹の下に」
コージの思いつきを受けて二人はコージの腹の下へ静かに潜り込む。そこへ蓋をするようにして銀狼は覆い被さった。
大量の雪が降って積もるこの場所では銀狼の体毛はカムフラージュに打ってつけ。思惑通りマインドイーターの群れはそのままどこかへと飛び去っていった。
「……ふう、もう行ったか。危なかったな」
コージがその身をどけてツナグとエルマが姿を現す。
「……はあ、良かった。戦いにならなくて」
エルマは心の底からほっとしているようだった。
一方でツナグはふわりと意識が遠のくような立ち眩みを経験した。そのあと背筋に嫌な悪寒が走った。視覚的効果によるものか、それとも現実世界の体が悲鳴を上げているのか。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
一部始終を見ていたエルマが心配して声をかけてくる。
「大丈夫。ちょっと疲れただけだ」
「急ごう。まだ元気なうちに」
状況が完全に逼迫する前に脱出方法を見つけだしたいプレイヤー勢。今現在唯一残された可能性はリンの言っていた干渉スポット。まだその存在を確認したわけではないので実際に行ってみるしかない。
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