CHAIN_64 不穏な揺れ
「大丈夫か?」
エルマのもとへ駆けつけたツナグ。
「は、はい。なんともないです。でも……」
「言わなくても分かってる。やっぱり一筋縄ではいかないな」
「お兄さん。僕どうすればよかったですか……?」
「今は放っておくしかないんじゃないか。俺もその頃は反抗期で意固地になってたしな」
「えっ、お兄さんもあんな感じだったんですか?」目を丸くするエルマ。
「待て待て。さすがにあそこまでは酷くない。あれはもっとこう……」
心の底から捻くれてしまったというような。
「とにかく学校で会ったら気をつけろよ。まあ大丈夫だろうけど」
「はい。大丈夫だと思います」
「あともしもあいつが……仲間に入りたそうにしてたら声をかけてやってくれ」
「そうするつもりです。ちょっと気難しいだけで本当は悪い子じゃないと思うので」
エルマは笑顔で返した。そういうところがきっと他の生徒から好かれているんだろうなとツナグは思った。
「そういえばあのアイテムここで本当に使ってよかったんです?」
「リフレクションシールドのことか? そのことなら気にするなよ。どうせいつか使うんだし、あの時がベストだったのは間違いないだろ」
「そのおかげで僕の倒した人数が四人になってますけど……」
「不満か?」
「い、いえっ! とんでもないっ! ただ、なんかお兄さんの手柄を横取りしたみたいな感じになってしまって……」
上目遣いでお伺いを立てるエルマにツナグはため息をつく。
「バカだな。もっと欲を出していけよ。そもそも倒す以外にも行動に応じてポイントが加算されるんだろ。ならそこまで深く考える必要もないじゃないか」
もちろんツナグ自身も良い成績を収めて願わくは個人戦の本選に出場したいと思っている。けれどそこには仲間を押し退けてまで成就させようという狡猾さはなかった。
「あ、ありがとうございます……。そんなふうに言ってもらえるなんて。あの時出会ったのがお兄さんで本当に良かったです」
「あのさあ、言いすぎだっての。そんなんだと周りからちょろいやつだと思われてすぐに騙されるぞ。俺がもしすげえ悪いやつだったらどうするんだよ」
「えっ、お、お兄さん。僕を騙してるんですか?」
「違うって。たとえばの話だよ」
「ああ、良かったあ……」
エルマはほっと胸を撫で下ろした。
「……ともかくだ。他人をすぐに信じるのはやめとけよ。特にこういう場だとなおさらな」
それは三文芝居を信じて騙された男の体験談。
「わ、分かりました。ここでは他の人をすぐに信じないようにします。でもお兄さんのことはすっごく信じてますから」
「まあ、それでいいよ」
人工知能のリンは人間の本質を騙し合いだと言った。だとしたらエルマのようなお人好しが真っ先に食い物にされるはずだとツナグは案じた。
「――ッ!」
「――わっ!」
突如として地面が、いや今いるフィールドそのものが地震のように大きく揺れた。
それはほどなくして収まった。
「い、今のは……」
「地震みたいだったな。何かの仕掛けか?」
「ですかね。火山エリアの火山が噴火したみたいな」
二人は顔を見合わせたあとに火山エリアのほうを向いた。エルマの言う通り火山はもくもくと噴煙を上げている。
「まったく。そこまでリアルにしなくてもいいのに」
「そうですよね。びっくりしちゃいました」
その言葉が示すようにエルマはツナグの胸板にしがみついていた。
「おいおい、怖がりかよ」
「ご、ごめんなさい」と言いながらもなかなか離れないエルマ。
「もう大丈夫だろ。行くぞ」
「は、はい。こういうおどかす系って苦手なんですよね……」
「ホラー映画とかお化け屋敷とかもダメな感じか」
「そ、そうです。風の音でもたまに呻き声みたいに聞こえる時あるじゃないですか。それにもいちいちびっくりしちゃうんですよね」
とちょうどその時遠くから不気味な鳴き声のような音が聞こえてきた。
「たとえばこんな感じか?」
「そそそ、そうですっ!」
エルマは震えながら再びツナグにしがみついた。
「いったいなんなんだよ、さっきから」
ホラー風味の現象にうんざりした顔で空を見上げると、今まで動いていた雲がその動きを止めていた。そのせいで日が陰りどことなく薄暗い雰囲気になっている。
「とりあえず街エリア側に行ってみよう」
風間たちのせいで足止めを食らっていたので二人はまだエリアの境目にいた。
「えっ、で、でも、さっきのあの音……」
不気味な音が聞こえてきたのは街エリア側から。そのことにエルマは不安を抱いているようだった。
「大丈夫だって。考えすぎだろ」
「ううっ……」
弟のような雰囲気でいて妹のようなかわいさを持つ中学生のエルマ。ツナグはその頭を雑に撫で回した。
「何が起きても結局は全部人の手による作り物さ。なんたってここは電脳世界なんだからな。取って食われたりしないから安心しろよ」
「……それでも怖いものはやっぱり怖いですよ」
「あのなあ……。分かったよ。万が一おかしなことが起きても俺が守ってやるから」
「お、お兄さん……」
エルマはその目を潤ませてすがるようにツナグを見上げた。
「これがいわゆる恋の始まりってやつねっ。少女漫画で見たことあるわっ」
リンは目を輝かせて二人の周りを飛び回った。
「なんてもん見てんだよ……」
「えっ……?」
「ああ、悪い。気にするな」
「は、はい」
距離が近いのでリンへの呟きも当然聞こえていた。
「なあ、そろそろ行けるか?」
「だ、大丈夫です。お兄さんが守るって言ってくれたので」
「守るけど支援のほうは任せたからな」
「も、もちろんですよっ。さあ、行きましょう」
ようやくツナグから離れたエルマ。それから二人は境目をまたいで街エリアに入った。
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