CHAIN_62 狂乱突風

 宙に舞う瓦礫と土煙の中でツナグは素早く鎖を引き戻す。感触を確かめるためにあえて切断せずに手もとへ返した。予想通り四人分の鎖を引き抜く手応え。まだ彼らは消滅していなかった。


「バカども! そいつは放っておけ! あのうしろのやつを狙え!」


 風間は高台から指示を飛ばす。四人はよろよろと立ち上がって標的をツナグからエルマへ切り替えた。


「あっ、どどど、どうしようっ」


 敵の視線が自分へ向いたことでエルマはあからさまに慌てている。辺りをきょろきょろと見回しては隠れることができそうな場所を探している。


「やっぱりそう来るかッ!」


 この展開は予想していた。だからさっきの攻撃で四人ともできれば仕留めたかった。


 ツナグは走ってエルマのもとへ。距離的には敵のほうが近い。


「ツナグっ! 間に合わないなら」

「鎖を飛ばせ、だろ! 分かってる!」


 リンの言いたいことは理解している。けれど彼女と同期していない今のツナグにとって有効射程は重要。近ければ近いほどその命中精度も上がるからだ。


 攻撃の兆候を感じた刹那に限界を見てツナグは鎖を射出した。と同時に四人から実際に攻撃が放たれた。標的であるエルマを目がけて。


「エルマッ! 動くなよッ!」


 その言葉はエルマを混乱させた。一方を見れば飛来するツナグの鎖。もう一方を見れば迫りくる敵の攻撃。その場から動かなければ全て直撃してしまう。


「――っ」


 エルマは信じてきゅっと目をつむった。


「よしッ!」


 タッチの差でツナグが間に合った。手を振るうとエルマの体に触れた鎖が折り曲がり何重にも巻いて縛った。


「来いッ!」


 体勢を崩す勢いで引き戻すとエルマの足が浮いて飛び上がった。そのままツナグのもとへ引っ張られていく。


 わずかに遅れて敵の攻撃が着地した。間一髪で回避したエルマが次にまぶたを開けるとツナグの腕の中にいた。


「お、お兄さん」


 驚くエルマの耳もとで何かを囁いたツナグ。


「は、はいっ」

「よし。……いくぞッ!」


 ツナグは鎖が巻きついた状態のエルマを今度は風間のほう目がけて放り投げた。


「なっ、バカか。あいつら」


 風間はその意味不明な行動に失笑。すぐさまスキルを使って撃ち落としにかかる。


「突風の息吹 《ガストブレス》」


 大きく息を吸って刺すように吐いたその息吹は突風となってエルマのもとへ。


 それに合わせて他の四人も上方へ向けて遠隔から攻撃を仕掛けた。


 鎖に拘束されて宙を飛ぶエルマは言わば当て放題のサンドバッグ状態。願ったり叶ったりの状況に五人組はにやつく。


「今だッ!」とツナグが叫んだ。

「――アイテム『リフレクションシールド』」


 エルマはアイテムを使用した。瞬間、体から光がほとばしりその身に受けた全ての攻撃をレーザーに変換して持ち主へと跳ね返した。


「そ、そんな……」

「嘘だろ……」

「ま、またこうなった……」

「か、風間さん……」


 それによって貫かれた四人は体力ゲージがゼロに。そのため参加権をロストしてすっと消滅した。


 もちろん風間もレーザーによる反撃を受けた。元の威力が高かっただけにダメージも大きくその苛立ちは計り知れない。


 役目を終えて地面に落下しそうになっていたエルマはツナグの機敏な動作によって引き戻された。鎖の拘束も解かれて二人は作戦成功のハイタッチをしている。


「……アイテム『ハーフポーション』」


 一方で高台の風間は唇を震わせながらアイテムを使った。それにより減っていた体力ゲージが限界まで回復する。


「エルマァッ……!」


 できれば温存しておきたかった貴重な回復アイテムをこの場で使わせられたことにその苛立ちは頂点へ。怒りとなって感情を剥きだしにした。


「あわわっ。ど、ど、どうしよう」

「大丈夫か?」

「か、風間君ってすごく短気なのに、一度切れるともう誰にも止められないんです」

「お前のクラスの先生はさぞかし大変だろうな」


 ツナグは見ず知らずの教師に同情してエルマの一歩前に出た。


「お前は後回しだッ! そこをどけッ!」


 あくまでその怒りの矛先は知り合いのエルマ。だからあえて前に出たのだ。


「落ち着けよ。最初の余裕はどうしたんだ?」

「なんだとォ……!」

「お山の大将は仲間がいなくなると何もできないんだな」

「……エルマと同じバカの分際で……!」

「お、お兄さんっ! あんまり刺激しないで……っ!」


 エルマは無駄に煽るツナグの背をポカポカと何度も叩いた。


「かかってこいよ、元大将さん」

「おっ、おっ、お前からやってやる……ッ!」


 すでに怒りで目の前が見えなくなった者を操るのは実にたやすい。風間は高台から飛び下りて、


「突風の運び 《ガストステップ》」


 自身に風を纏わせた。その突風の如き足取りでツナグを目がけて一直線に走る。


「エルマ。あとは頼んだ」


 思惑通り相手の注意が自分に向いたのでツナグはエルマから離れた。


「ツナグっ。どうするつもり?」とリンが聞く。

「正面から叩く」

「それだけっ!?」

「ああ。こういう相手は変に考えるよりも真っ直ぐ戦ったほうがいい」

「ほ、本当にぃ?」

「まあ見てろって」


 半信半疑のリンを視界の外に追いやって風間を迎え撃つ。


「突風の息吹 《ガストブレス》」


 風間は射程圏内から吹き矢のような動作で鋭い突風の息を吐いた。


「――ッ」


 とっさの判断。見えないそれがツナグの頬をかすって通り過ぎていく。


 今まで戦ってきた強者に比べるとそこまでではない。けれど学校や地元で評判のデントプレイヤーというのがただのお飾りじゃないことはその動きで証明された。

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