CHAIN_57 戦闘開始
マップを確認してみると今現在いるのは砂漠エリア。全部で六つのエリアがあり、他は森林、雪原、街、火山、湖となっている。
「始まったのねっ!」
ツナグの中から目覚めたリンが出てきた。朝からずっとスリープモードだったのだ。
「今頃起きたのかよ」
「アップデートにちょっと時間がかかったの。データの圧縮方法を変えたから前よりも少しはツナグの負担が減るかも」
「……そうなのか。サンキューな」
「えへへっ」
褒められて喜ぶリン。
ツナグはまさか彼女が自分のために何かをしているとは思わなかった。
「これでもりもりとデータが集められるわっ!」
「…………」
おそらくはそちらがメインのアップデートでツナグの負担云々は副産物的なものだった。
その場でじっとしていても何も始まらないのでとりあえず砂漠を歩く。
「まさか俺だけってことはないだろうな……」
ロックダウンされた空間に閉じ込められた時のことを思い出してツナグは身構えた。
「そんなことないわよ。少なくともこの近くにいくつかの反応があるもの」
「そんなことが分かるのか?」
「秘匿状態でエコーを使ってみたの。そしたら移動するオブジェクトの反応が返ってきたから。きっとプレイヤーよ」
「……お前」
いつも知らぬ間に謎の機能を使っている人工知能に驚きつつツナグは周囲を警戒しながら砂丘の上を歩く。
この個人戦では中学生と高校生が混合で争う。電脳戦において相手の年齢は重要ではない。年下だからといって甘くみると痛い目にあうのが落ちだ。
「――ツナグっ! 足もとっ!」
リンの声にハッとして足もとを見ると砂が盛り上がってそこから手が伸びてきた。
「鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」
ツナグはすかさず鎖絡めの拳を地面に叩きつけた。すると、
「くっ……! 気配遮断のスキルを使ったはずなのに」
砂の下に潜んでいた中学生くらいの男が姿を現した。ダメージを受けて怯んでいる。
「悪いな」
ツナグは相手の体に鎖を巻きつけて砂上に何度も叩きつけた。が、柔らかくて思ったよりも威力が出ない。だから鎖をピンと伸ばして相手を宙に固定したあと、
「鎖の雁字搦め 《チェーンバインド》」
雁字搦めに縛りつけてジリジリときつく締めていった。
「う、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……ッ!」
男はパワー不足で拘束から逃れることができない。徐々に減っていく体力ゲージを見てツナグがさらに力をこめるとそれがますます早まった。
「また次もあるし頑張れよ」
男の体力ゲージがゼロへ。その時点でツナグは彼を解放した。
砂上に落下して横たわった男は参加権のロストによりふっとその場から消滅した。
「……まずは一人」
今のでどれだけポイントが入ったのかは確認できない。けれど倒した人数の欄に一人追加されている。
「気をつけないとな」
いつどこから襲いかかってくるか分からない緊張感。しかも団体戦と違って相手のアビリティを事前に知ることができない。そうなると露出の多い有名プレイヤーは間違いなく不利となる。
東京都四帝のユリカやヒサメ。薔薇の女王と呼ばれるリコル。彼らのことを思い浮かべながらツナグは森林エリアのほうへ向かう。
鎖での移動や攻撃が弱体化する上に遮蔽物の少ないこの砂漠エリアはツナグにとってあまり長居したくない場所だ。
リンも早急に移動すべきだと状況を分析した結果そう判断している。
できるだけ敵の視界から外れるようにその身を動かして移動。途中、明らかな戦闘音が聞こえてきて砂が大きく舞い上がった。
それからもしばしば戦闘中と思われる場面に遭遇したが、ツナグは逃げるようにしてそのままエリアの境目にたどり着いた。
目の前に森林エリア。飛び込むようにして中に入ったツナグ。
「……ふう。これでちょっとはマシか」
「そうね。でもここだと障害物が多くてエコーが正確に機能しないから気をつけて」
「分かってる」
蔓植物の巻きついた熱帯の木々に隆起した根が地面に張り巡らされている。隠れながら移動ができる分、視界はずっと悪い。けれどそれは向こうも同じ。
ある程度開けた場所じゃないと鎖の射出に支障が出るので状況がかなり良くなったかと言えばそうでもない。
しばらく探索していると遠くから悲鳴が聞こえた。気になって近づいてみると、少し開けた場所に三人のプレイヤーがいた。
「人質を取るなんて卑怯だぞ!」
「はははっ、これも戦術の一つさ」
「た、助けて……!」
仲間の女を人質に取られたというような構図。
言ってしまえばゲームなのにここまで醜い行為をしなくてもいいじゃないかとツナグは彼らを不憫に思った。だから少しだけちょっかいを出すことにした。
「――鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」
踏み込める位置から束ねた一本の鎖を高速で射出した。
「うがッ……」
それは真っ直ぐに伸びて拘束している男の頭にヒット。勢いで弾かれた隙にツナグは飛びだして人質となっていた女のもとに駆け寄った。
「ごめん、野暮だとは思ったんだけどつい」
「――ツナグっ!」
人質から解放された女は近寄ってきたツナグに対してなぜか短剣で攻撃を仕掛けた。
「――ッ!」
リンの呼び声でとっさに回避したツナグ。
「チッ。外したか」
女はすぐうしろに下がって再び構えた。その隣には仲間の男と……不思議なことに自分を人質に取ったあの拘束男がいた。
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