拍手 084 百八十一 「マレジア」の辺り
「これ、向こう、置く?」
「うんそう。お願いね」
「わかった」
一月くらい前に、山で娘が拾ってきたユルダの男は、ここしばらくで片言の言葉なら話せるようになった。
最初は言葉が通じず厄介だったものだ。しかも、ユルダ。何故こんな男を拾ってきたのか、と一時は娘を酷く責めたものだ。
それでも、何が気に入ったのか娘は男を追い出そうともせず、根気よく言葉を教え始めたのだから驚く。
男の物覚えの速さにも驚かれた。同じ事を余所でやれと言われても、自分には出来ないだろう。
娘のような、根気強い行動も。
だが、これだけは娘に言っておかなくてはならない。
「あの男は、駄目だぞ」
「! そ、そんなんじゃないし!!」
口ではそう言っても、目は男への思いであふれている。その男は駄目だ。あいつはユルダなんだ。その先にあるのは、苦しみだけだというのに。
それでも、娘は男の側を離れない。その気になれば、適齢期の男など里の中にいくらでもいるのに。
ここに気に入る相手がいないのなら、年に一度の大祭で集まる周辺集落の若者を見繕えばいいではないか。
何も、先のない相手に思い入れる事はない。
そう思っても、いくら説得しても、娘は聞き入れようとしなかった。これは、もう一生独身を貫く事を覚悟した方がいいだろう。
何、そうした者がいない訳ではない。少数派なのは確かだけれど。
親としては、子の行く末を見守るのみだ。
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