拍手 083 百八十 「祈りの洞」の辺り
村の中央では、まだ怪我の後が生々しい二人が村人によって囲まれていた。
「長はまだか?」
「さっきの連中にまだ時間がかかってるらしい」
「ちっ。まったく、妙な連中まで呼び込みやがって」
取り囲む男達の機嫌は、非情に悪い。ただでさえ巨大な猪の陰に怯えているところに、彼等がもっとも嫌う「余所者」を、村の鼻つまみ者共が連れて来たのだ。
「大体、こんな大変な時に、何村を出ていったりしたんだ!?」
「大方、自分達だけ助かろうと思ったんだろうよ」
「へ! 違いない。狩りすら出来ない腰抜け二人だもんなあ?」
「そういや、服に血が付いてるが、怪我らしきものが見当たらないぞ。どういう事だ?」
「まさか、あの余所者が治療を?」
「馬鹿抜かせ。得にもならないこんな奴らを助ける訳がない」
「それもそうだな。金なんぞないのは見ればわかるだろうし」
「となると、あの二人がここに来た理由って、なんだ?」
「おい! お前らが連れて来たあの二人組、何が目的でここ来たんだ!?」
怒鳴るように聞かれたが、恐怖で震えてうまく声が出せない。その様子に、聞いた男は舌打ちした。
「ちっ。全く、本当に使えねえ奴らだ」
「目的に関しては、長が聞き出してくれるさ」
「だな。俺らがやる事は、こいつらをどうするか、決める事だ」
「決めるったって、掟に背いた以上、追放するだけじゃねえか」
「……いっそ、囮に使っちゃどうだ?」
一人が言い出した恐ろしい提案に、周囲の男達が食いつく。
「囮って……もしかして、あの化け猪退治のか!?」
「ああ、あいつが人も食うのは、この間の事でわかっただろう? こいつらを縛って木に吊しておきゃあ、あの化け猪をおびき出せるってもんだ」
「なるほど。そこを全員でかかれば……」
「な? いい案だろう?」
「よし! おい! 誰か、こいつらを縛る縄を持ってきてくれ!!」
自分達の意見など、何も言えないまま、二人は縛り上げられて巨大猪の囮される事が決まってしまった。
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