拍手 082 百七十九「森の中の村」の辺り
馬車に揺られながら、ティザーベルの頭の中はこれから狩る猪で一杯だった。
猪という事は、肉は食えるのだろうか。毛皮は使えるだろうか、牙はどうだ、内臓は薬に使えるのではないか。
帝国でも、猪型の魔物はよく倒した。コブイノシシはいい値段がついた。猪タイプの魔物は肉がうまいおかげで、割といい値段で引き取ってもらえるのだ。
その分、討伐の仕方に冒険者の腕が出る。うまい連中は一撃で仕留めるものだ。剣で首を落とすもの、槍で額を貫くもの、弓矢を使う場合はなかなか一撃でとはいかないらしい。
そして、ティザーベルも一撃で仕留めるタイプの冒険者だ。何せ使うのが魔法なので、獲物の素材を一番痛めない仕留め方をする。
おかげで帝都の引き取り所では、あっという間に責任者と顔見知りになった。引き取り所としても、いい素材を持ち込んでくれる冒険者とは懇意にしておきたいのだ。
拡張鞄を持っている冒険者は多くはないが、だからこそ持っている連中は腕が良く稼ぎがいい。
そうした冒険者は馴染みの引き取り所に獲物を卸すのだ。引き取り所は帝都だけではない。ギルドの支部がおかれている街なら大概併設されている。
以前聞いた話だが、ギルドは全ての支部本部を併せて一年に一度査定を受けるのだそうだ。
どれだけ街周辺の魔物を狩れたか、以来達成度や地域への貢献度はどうか、その辺りを中心に査定を受け、それが翌年の職員の給料に反映されるという。
地域によっては魔物が少ない場所もあるけれど、そうした街の支部は別の依頼で達成度や貢献度を上げていけばいいそうだ。
そして、引き取り所も査定を受ける。こちらは純粋に取引した魔物の量と取引額が査定の対象だという。
だからどこの引き取り所も、腕のいい冒険者を「お得意様」にしたがるのだ。中にはその為に強引な手に出る者もいる。ラザトークスの引き取り所にいたテヒバンがいい例だ。
彼はその後、ギルドを解雇されてラザトークスからも追い出されたと聞いている。その昔は冒険者をやっていたというから、元の職に戻ったのかもしれない。
もし、道を踏み外していたとしたら。
「どうでもいいか」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
帝国はここから遠い。テヒバンがどうなっていようと、ティザーベルには関係のない事だし、奴が盗賊に墜ちていたら、どこかで敵として顔を合わせる事があるかもしれないだけだ。
その時は、手加減なしであの憎たらしい顔に魔法をぶち込んでやる。うっかり人外専門の看板を忘れそうになるけれど、構うものか。
久しぶりの狩りでわくわくしていたのに、どうしてか最後は気に入らない相手のところに思考が辿り着いてしまった。
それもこれも、きっとこの雨が悪いのだ。早いところ太陽が見たいものだ。
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