拍手 081 百七十八 「久しぶりの」の辺り

 いつもなら、獲物の動向を探るのに魔力の糸を使うのだけれど、今は支援型がいる。なので、彼女達の力を借りた。

「空中にマップ表示されるのは、便利ねえ」

 のんびり眺めながら呟く。普段の方法は自分の手を伸ばしたような感じでわかりやすかったけれど、これはこれで悪くない。

 マップ上の獲物は赤い点で示されている。半円状に広がって、包囲網を敷こうという訳か。

 これまで、この方法で狩りを成功させてきたのだろう。

「だが、残念」

 こちらとしては、集まってくれていた方が手間が省ける。

 地図を見ながら、獲物の包囲網より大きめに結界を張った。獲物の動きに合わせて、結界を絞っていく。大きな網で魚の群れを追い込むように。

 やがてティザーベルを中心に周囲を獲物が囲んだ。今にも飛びかかりそうな先頭集団が目に入る。

 つい、嬉しくてにやりと笑ってしまった。

 それを感じ取ったかどうかは知らないけれど、結界を一気に絞って獲物をまとめた。見えない袋の中でもがく獲物達。オオカミのような、野犬のような、犬型の獣である。

「魔物……じゃないみたいだね」

 土地の魔力が弱いせいか、獣が魔物化していないのだろう。結界の中では、何とか這い出ようともがき続けている。これでは毛皮が傷つきそうだ。

 野生の獣なので、普通に傷は多そうだけれど、こんな事で増やされては値段が下がる。

 結界の中の酸素だけを抜くよう、コントロールする。途端に苦しさが増したのか、しばらく獲物は動きが激しくなったけれど、やがて一匹、また一匹と静かになった。

 マップで全ての獲物が事切れたのを確認してから、結界を解除して中身を取り出した。本当なら、そのまま引き取り所に出したいところだけれど、ここらの国ではその辺りがどうなっているのか、全くわからない。

 少なくとも、ヒエズバスでは冒険者組合のような組織は見当たらなかった。多分、狩人が狩った獲物を自身で加工するか、もしくは毛皮を使う職人に直接卸すかしていると思われる。

 組織として買い取りをしていないのなら、これらは移動倉庫の中でしばらく放置しておく事になるだろう。

 自作の拡張鞄にしたずだ袋を取り出し、そこに獲物を全て放り込む。そのまま移動倉庫に入れないのは、食べ物や着るものも入っているからだ。

 全てを収納した拡張鞄を移動倉庫に入れ、ティザーベルは馬車へと戻った。

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