第103話 覚醒は目前に…
「ジュリエット!」レティシアは想い人のすぐそばに跪いた。「お願いだから死なないで…」
ジュリエットは激痛に顔を歪めながら自分を撃った相手を見つめた。ミレアは呆然とした眼差しで事態を受け入れないでいる。
「これで終わりにしませんか。三人が憎しみあう理由はどこにもないはずだ」
「何言ってるの…」ミレアは呼吸を乱しつつもレーザー銃を再び二人に向けた。「取り引きとか言っておきながら、初めから私を殺すつもりだったのね。きみという人間がよくわかったわ」
「お願いです」ジュリエットの懇願する声は弱々しく容態の危うさが伺い知れた。「レティシアを見逃してください。代わりに俺の命を差し上げます…だから彼女を自由にしてください」
「きみも彼女もすぐに自由になれるわ。あの世で仲良く結ばれなさい」
トリガーを引きかけた瞬間にレティシアが「やめて!」と叫び声をあげるが放たれたレーザーはジュリエットの胸部を貫通した。
口から大量の血を吐きだしたジュリエットにまだ息があるのはレーザーが急所を外れたからなのだろうか。
レティシアは嗚咽し両目からは涙が溢れた。
「どうしてジュリエットがこんな酷い仕打ちを受けなければいけないの。彼は何も悪いことをしていないのに」
「私の心を超能力で操った罪はどうでもいいわけ? 白馬の王子様だったら何をしても許されるとでも言いたいの?」
「あなたは…ただ楽しんでいるだけよ。武器を持ち強くなった錯覚に陥って…これがあなたの本性なの?」
「あまり私を怒らせるとルクレール君がまた苦しむことになるわよ」
レティシアは顔をうつむけると、目から溢れた涙が頬を伝わりポロポロとジュリエットの顔に落ちる。腕のなかの男はいまにも息を引き取りそうであった。
絶望と憎悪はレティシアの心のなかで渦を巻き、加速度的に大嵐となって生まれてこのかた彼女を抑制してきた堤防を決壊させることになる。
堤防…それを良心と呼ぶのもよかろう。
だが本当はそうではない。
人工生命体としての特殊能力を開花させるのを何よりも恐れていたのは当のレティシア本人であった。
人間でありたいと思うがゆえに無意識のうちに無能である道を選択し、リリスから役立たずと軽蔑されようと、科学者グループの一部から廃棄処分の意見が出ようとも、人工生命体であることを常に拒んできた。
「許さない…」レティシアはうつむいたまま震える声でミレアに告げる。「私はあなたを許さない」
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