第102話 レティシアに嫉妬するミレア
『リュドミールは私を利用するだけ利用して最後には私を見捨てた。でも彼は…』
驚きと動揺は超能力者への殺意を一時的に後退させたが、それに成り代わってレティシアへの反感が急速に沸き上がってくる。
それは自分にはないものを彼女が持っていることへの嫉妬であった。
ミレアの心に悪魔的な考えが浮かんだ。
「こういう取り引きはどう?」ミレアは柔らかい声と柔らかい眼差しでジュリエットに新しい提案をもちかけた。「きみへの処罰が寛大なものになるよう私の権限で取り計らってあげる。その代わりにきみは軍人としての本分をつくし、駐留軍の最高司令官である私に帰順しなさい」
「………」
「何も私は特別難しいことを言ってるわけではないのよ。組する相手を変えるだけ…簡単なことよね」
寄り添うレティシアは囁き声で「ジュリエット、この人は…」と不安げに告げた。彼は「大丈夫だよ」と小声で答える。
「高等弁務官の取り引きというのは…要するに俺が機動歩兵のパイロットにもどり、レティシアを見捨てろということですか」
「何か問題でもあるの? とても簡単なことだけど」
「前にもお答えしたように、それはできません」
「これが最後のチャンスなのよ」
「残念ながら」
「そう…」ミレアはイライラ感が全身を包むのを感じていた。かつて自分が手に入れられなかったものを、この二人が手に入れるのは正直言って我慢ならないのだ。「では死になさい」
ミレアは二人を撃ち殺す決心を固めた。
「高等弁務官はあまり武器の操作には詳しくないようですね」ジュリエットはこれ見よがしに苦笑した。「セーフティがかかった状態ではレーザーは発射されないですよ」
ミレアが視線を銃に向けた瞬間、ジュリエットは素早く彼女に飛びかかった。それは魔法で負傷した体が嘘のような素早さであった。
むろん体が完全に回復したわけではなく無理に無理を重ねている結果であった。
ジュリエットはミレアの右手首を掴んでレーザー銃を振り落とそうとする。
不意打ちを受けしかも戦闘訓練を受けていない女の文官とあっては本職の軍人に太刀打ちできるはずもない。
力も技も圧倒的に有利であったが銃を振り落とすべく相手の右手首を下方向へ払ったとき、ミレアのトリガーにかける指がその場の勢いに流されて無意識のうちに力が込もった。
そのときの銃口の先にあったのはジュリエットの腹部であり発射されたレーザー光が彼の体を貫通した。
ジュリエットは低い呻き声を漏らすと後ろのめりの形で背中から床に倒れた。パイロットスーツの左腹部部分に血の染みが広がり、微かではあるが室内に肉の焦げる臭いが充満する。
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