第97話 新しい陰謀
「あともう少しだけ我慢すればいいのね」通信を終え、どっと疲労感が押し寄せてくるの感じた。それは助かる見込みがでてきたことにより張り詰めていた緊張が解れたことによる。「救援が来るまでの我慢ね」
「しかし我々には乗り越えなければいけない最後の障害が残っていますよ」
席の脇に立つラファエルはミレアが伺い知れない事情を口にした。
「障害?」ミレアはスクリーンからラファエルへと視線を移す。「ただ待てばいいだけなのに?」
「高等弁務官は何か重要なことが思い出せないと言われた。そして私はそれが何であるかを知っている」
「………」
「もちろんあなたは怪訝に思われることでしょう。ですがいまから私が言うことをよく考えてみてください」ラファエルがミレアに顔を近づけると彼女は本能的にドキッとする。「レティシアが人工生命体で、ルクレール少尉が超能力者だということをお忘れですか」
「あなたの作り話なの?」
ラファエルのイメージに似合わない冗談だと思ってミレアは苦笑した。
「高等弁務官はルクレール少尉のテレパシーで心を操作され、二人の正体に関する記憶を捏造された。あなたが思い出せないのは本当の記憶ですよ」
ラファエルの真剣な眼差しにミレアの苦笑は消え失せ何やら考え込む仕草になる。
「そうだった…かしら」思い出せない記憶の直後にあるのはジュリエットの姿であるのは確かであった。「ルクレール君と話をしているときに何か思い出せなくなったような気がするのよ」
「それがテレパシーによる心理操作ですよ」ラファエルの計画は終盤に差し掛かっており、それが成功するか否かは目前の女にかかっていた。「私の目を見れば思い出しますよ」
反射的にラファエルの目を見るが、それはこの男の術中に自ら飛び込むことを意味していた。
何かがおかしいとミレアが思ったときには既に手遅れであった。彼女は瞬く間に意思の自由を失いラファエルの統制下に陥る。
「…思い出したか?」
「ええ」虚ろな瞳で答える女は確かに本当の記憶を呼び覚まされていた。「でも…あなたも人工生命体」
「それはおまえの記憶違いだ。私は研究所のソフトウェア技術者だ。おまえが知っている人工生命体はレティシアとリリスだ。そしてリリスは死んだ」ラファエルはもう一度強調する。「私は人工生命体ではない。違うか?」
「…あなたは人工生命体ではないわ」
「そうだ」術の成果にラファエルは満足感を感じる。「ルクレール少尉は超能力者だ。そしてテレパシーでおまえの心を操った。とても危険な男だ。相応の処分が必要だとは思わないか?」
「最高司令官に対する反逆罪は…軍法会議で銃殺刑の求刑。いえ…彼は超能力者だから特別法が優先して反地球活動調査委員会による死刑かロボトミー手術の判決」
「違う。おまえ自身が刑を執行する。それは高等弁務官の地位にあるものとしての義務だ。つけ加えるならば人工生命体のレティシアも同じく処分する必要がある。彼女も危険な存在だからな」
「私には戦う能力なんてないわ」
「武器を与えよう。いまのルクレール少尉には超能力を使う余力がないから武器があれば簡単に殺せる。レティシアはもっと簡単だ」
ラファエルはメインフレーム室前の通路で入手したレーザー銃をどこからともなく取り出した。それはジュリエットが所有していた銃でもある。
「私は救援を迎えるために隔壁の外に出る。おまえはいまから十分後に行動を開始するんだ。躊躇うことはない。超能力者には人権規定が適用除外だ。そして人工生命体は人間ではない…殺して後悔する必要などどこにもないのだからな」
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