第76話 ジュリエットの選択肢は3つ

 ジュリエットが案内された場所は、この区画で最初に訪れた部屋であった。


 ミレアはジュリエットに端末前のシートに座るよう指示すると、彼の横脇から端末を操作して所内メールを表示させた。


 出血多量で死を目前にした研究員の遺言。


「………」


 無言でメールの内容を黙読するジュリエットは、努めて無表情を装っていたものの、内心では信じられぬ思いでいた。


 高等弁務官への弁解はとても苦しいものになるだろう。


 それに加えて自分があの二人に組していることを高等弁務官に知られてはならない。それは最終的には超能力者であることが発覚する導火線となる。


 人工生命体の存在を暴露するそのメールには三名の名が連なっていた。ジュリエットは残りの一人とはまだ面識がない。


「何と言えばいいのか…とても信じがたい内容ですね」


 ジュリエットは端末からミレアへと視線を移した。頭のなかでは何とかして弁解できないものかと考えている。


「私もまだ半信半疑な部分があるけど、でもこのメールを作成した人が嘘をつく理由なんてないはずよ」


「これは…何かの罠かもしれません」ジュリエットは見苦しいと思いながらも口にした。「人工生命体は本当は別の誰かで、生き残ったあの二人に目をそらせるためにこのような形を装ってメールを配信したのかもしれません


 ジュリエットはシートから立ち上がった。いつまでも最高司令官を立たせた状態にして、自分だけが座っているわけにはいかない。


「メインフレームに侵入してこの区画だけの隔壁をコントロールできるというのが私には納得できないのだけど。あまりにも都合がよすぎはしない?」そしてミレアは続けた。「私が逃げているところをラファエルさんが助けてくれたというのも…単身で外を移動していたというのがいまにして思えばとても不審な行動なのだけど」


 もはや弁解は通用しそうにもなかった。


 だが他にも道はある。方法は三つだ。


 一番目は人工生命体の理不尽な生い立ちを説明して協力してもらうこと、二番目めはテレパシーで心の操作をおこなうこと、三番目めは亡きものにして口を永久に閉ざさせること。


 言葉による説得は問題外だ。


 ミレアが人工生命体に同情する理由がない。


 そして人の心を操るのは考えただけでも嫌だ。


 さりとて殺すのは言葉による説明以上に問題外である。


「高等弁務官としては今後についてどのようにお考えですか」


 どこか暗い雰囲気が漂う相手の様子に、ミレアは違和感を感じた。意外な情報に動揺しているからなのだろうか。


 ジュリエットは弁解を諦めて三つの方法のうちいずれを採用すべきか頭をめぐらせていた。


「ルクレール君が受けた任務は?」


「偵察と高等弁務官の救出であります」


 二番目しかないのか、と思いながらジュリエットは返答した。


「では任務を忠実に実行なさい」

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