第59話 ヴァンパイアの特殊能力
「あなたは私を普通ではないと思っていますね」ラファエルは椅子の向きを変えるとジュリエットを真正面から見据える体勢になった。「顔にそう書いてありますよ」
「………」
「たしかに普通ではないのかもしれません…実際のところルクレール少尉は私とレティシアをどのように見ておられるのですか?」
「急にそう言われても…」
ラファエルの両目はジュリエットの瞳をとらえ視線を固定する。
「…どう見てるのですか?」
曖昧な言葉でその場を逃れようと考えていたジュリエットは、自身の瞳でラファエルの視線を受けとめているうちに視界がぼやけはじめるのを感じた。
『何だろう…?』
目にゴミでも入ったのだろうかと考えているうちに思考の明確さが失われていく。極度の睡眠不足にでも陥ったかのような睡魔が襲いかかり瞳を開けていることがとても苦痛に感じられた。
「おまえは我々をどう見ているのだ?」
虚ろな瞳で立ちつくすジュリエットにこれまでとは異なる口調でラファエルは訊ねる。正常な思考を奪われたジュリエットは偽りを口にすることも曖昧な答えを口にすることもできない状態に陥っていた。
「普通…じゃない」
ジュリエットの唇から本音が漏れるものの彼自身の意識は混沌としており、自分が何かを話しているという自覚はなかった。
「なぜそう思う?」
「あまりにも自己中心的な挙動が目立つからだ。普通は上辺を装って隠そうとするがあまりにもストレートすぎる。しかもこの状況下で怯えている様子がまったくない。口でこそ身の安全にこだわっているがそれが態度にでていない」
焦点の定まらない瞳はラファエルの視線によって縛られているようだ。
「ではレティシアをどう見ている?」
ラファエルは自分の特殊能力である催眠が予想通りの効果をあげていることに内心満足していた。
夢の世界に閉じこめられたジュリエットは人工生命体が命ずるままに心の内を口にしていた。
「彼女の読心能力には驚くばかりだ。それに嘘に対する考察も興味深い」
「嘘…?」
「俺は長い間地球人の欺瞞に我慢がならなかった。人間不信と言ってもいい。だがレティシアの言葉に…少しばかり目が覚めた」
「おまえはなぜ地球人の欺瞞を嫌う?」
「それは…」
混沌とした意識のなかで彼に超能力を授けた師匠は語りかける。『己を見失うな』と。閉ざせれた世界に微かに差し込んだ理性の光はジュリエットをして精神エネルギーの集中をなさしめた。
「なぜ嫌う?」
ラファエルの眼光に凄みが増す。
無意識に超能力のシールドを張り巡らせるとジュリエットの瞳からは虚ろさが次第に消え失せていく。だがそれと同時に表現のしようのない奇妙な頭痛が彼を襲った。
痛みに耐えかねたジュリエットは床に両膝をつくと激しい呼吸音で息を乱した。
「俺は…いったい」
思考を取り戻したもののこれまでの記憶が欠如しているジュリエットはまるで現状が理解できないでいた。
膝をついた姿勢のままで彼はラファエルを見上げる。冷ややかな眼差しで見下ろすその姿はジュリエットの知る研究員とはどこか違っていた。
「ルクレール少尉、お体の調子がよくないようですね」
人工生命体は口調を戻しもとの研究員を演じた。
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