第38話 魔法と超能力はどちらが上か?

「お姫様の救出は第2小隊にお鉢を奪われちまったかな」


 汚染物質除去プロセスを終えたアヴシャルは、指揮車から出てきたばかりのジュリエットに声をかけた。


 タバコ片手にいつもの口調で話すアヴシャルもどこか表情に陰りが見えるのは部下のチョウ軍曹が未帰還ゆえだろうか。


「高等弁務官救出の代償は高くつくかもしれないですね」ジュリエットは恐ろしく生真面目な表情になった。「小隊が全滅しても高等弁務官がすることといえば口先だけの弔辞と心にもない悲しみだけでしょうから」


「………」


 普段はない毒を吐くジュリエットにアヴシャルは言葉を詰まらせた。この若者のこういう姿を目にするのはこれが初めてであったのだ。案外毒舌家かもしれないと彼は思った。


「地下第二層の偵察で部下を死なせないようにせいぜい頑張りますよ」


「気をつけた方がいい」アヴシャルは何か気のきいたセリフはないか頭をめぐらせた。「ロールプレイング・ゲームと同じで下に行くほど敵は強力だからな。しかもリセットボタンも復活の呪文もなしときている」


「ではボスキャラに遭遇しないことを祈りますよ。なんといっても俺のヒットポイントはそれほど高くはないですからね」ジュリエットはアヴシャルの風変わりなユーモアに苦笑を浮かべながら波長をあわせた。「こう見えてもマジックポイントには結構自信があるんですよ」


「マジックポイントねえ…」アヴシャルはククッと忍び笑いを漏らした。「下に行くほど敵が強力になるのなら地下第二層あたりから魔法使いが出現するかもしれんな」


「ここは何でもありの惑星ですからね。何があっても驚きませんよ」


「そりゃそうだ」アヴシャルはタバコをその場にポイ捨てすると靴の踵で残り火を踏みつぶした。「おまえさんは一昨日のサイエンス番組を見たか?」


「あまりそういう番組は見ないので」


「『魔法と超能力はどちらが上か?』という特集をやっていたぞ」


 内心で「えっ!?」と思うジュリエット。


 先程の微妙な表現に超能力者であることを見抜かれたのではないかと少しばかり動揺する。そして同時にどちらが上なのか知りたいという気持ちも存在していた。


「初耳ですね…どちらが上なのですか?」


「知らんよ」ぶっきらぼうに言うアヴシャル。「綺麗な解説員のお姉さんに見とれているうちに酒で酔いつぶれてしまったからな」

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