第16話 地下で蠢くモノたち
「地上の連中が侵入したみたいだ」声の主は見事なブロンドを悩ましげにかき上げた。「我々のためにわざわざ扉を開けてくれるとはな」
投射される映像の山はすべてを知らせていた。
切断された防護扉、侵入するアンドロイド、そしてトラップの作動による爆発…。
「でも怖じ気づいて動きが止まってしまったみたいね。何だかつまらない…せっかく私の魔法を活用できるチャンスだと思ったのだけど」
その言葉を口にするのは人ならざる存在。エルフと思わしきその女は状況の膠着を退屈だと解釈していた。
「リリス、我々は戦うために立ち上がったのではない。地上に出るためだということを忘れるな」
「わかっているわよ。地上に出るため、自由になるため…そして自分以外の誰にも命令されないため」
リリスは最後の言葉をそれとなく強調してみたが、リーダー格のヴァンパイアに皮肉は通用しなかったようだ。
「いまでこそ地上の連中の動きは止まっているが、いずれは強力な兵器を用いてくる。我々は己の力とここの防御システムをあまり過信すべきではない。数と力押しで攻められればひとたまりもない」
「ラファエルにしては随分弱気な発言ね」
「私は現実を口にしているだけだ。生きて地上に出たいのでね。現実を直視できなければ滅びるだけだ。しかも我々は後戻りできない立場にある」
ラファエルという名の人工生命体は冷めた視線をリリスに投げかけた。反乱の第一段階は見事に成功した。それはリリスの魔法に依存するところが少なからず存在していたので、その意味ではこのエルフに非常に感謝していた。
だが遺伝子操作によって高い知能を授かっているはずのリリスにしても、少しばかり将来予想という視野が欠けているように見受けられる。戦いに勝つことが目的なのではない。地上に脱出して、なおかつ自由になることが目的なのだ。
「…ところでレティシアの姿を見かけないな」
「あんな根暗なんか知るものですか!」打って変わったようなリリスの声。「ろくに能力も発揮できない役立たずを気にしている場合じゃないでしょう」
リリスはときおりレティシアへの感情的しこりを爆発させることがあった。その理由はラファエルも知らない。
しかし何よりも結束が求められるこの状況において仲間内の感情的もつれというのは決して好ましいとはいえなかった。
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