第14話 人工生命体

「ここは遺伝子実験の研究所だ。それは知っているか?」


 ミレアは首を横に振った。


「ラザフォードの外からエルフなどの異種族を連れ込み人間の遺伝子と組み合わせて人工生命体を創造している。他にも人体実験とかも実施していたそうだ。俺の役職ではあまり詳しいことは知り得なかったが」


 ザカリアスの口から話される研究所の実態。


 ミレアは両目を見開いた。このような内容は予想外なのだ。


「人工生命体って…でも外の種族をラザフォードに持ち込むことは」そのときミレアはある事実を思い出した。「この研究所の貨物類はノーチェック…」


 特例規則でエレボス研究所が外部から持ち込む物は司法局や憲兵隊の検閲が及ばないようになっていた。


 以前ミレアはそのことが不正の温床になりはしないかと危惧を抱いてたものの、まさか外の種族を連れ込んで遺伝子実験に用いるとは想像もしていなかった。


「いったい何のために…」


「さてね、でも色々言われていたぞ。地球人に魔法の力を使えるようにしてミスティアルの超能力に対抗するためとか、あるいは地球人類を次の高次段階に進化させるためだとか、科学に従事する者であれば一度はこういう研究を実施してみたいとか…本当のところはどうなのか俺にはわからん」


「その…人工生命体の創造は実際には成功したの?」


「ああ、ヴァンパイアとの合成生物やエルフとの合成生物…他に何体いるかは知らないが。少なくともいま話した二体は確実に存在する。連中が反乱を起こしたときに戦闘模様を監視システムで見たからな」


「反乱?」


「奴らは人間よりも遥かに高い知能を持っている。遺伝子操作の結果だ。それだけに自我に目覚めるのも早かった。おおかた…実験体として生涯を過ごすことに嫌気がさしたのだろうな」


 ラザフォードに足を踏み入れたエルフはサミーラが初めてではなかったのだ。


 侵入事件にミレアが振り回される遥か以前から、この地下施設では異種族を連れ込み恐るべき研究をおこなっていたにちがいない。


 ミレアは自分がラザフォードの統治者でありながら何も知らないことを改めて思い知らされた。


「その結果がいまなのね…」


「ここの監視システムと防御システムはこのような事態を想定して何重もの安全対策を講じていたが、奴らはコンピューターウィルスを端末からダウンロードしてメインフレームを乗っ取りやがった。気がつけば味方のはずのアンドロイドが俺たちに攻撃の矛先を向け始めたというわけさ。さっきのアンドロイドだってそうだったんだぜ」


「よく生きていられたわね」


「何と言っても俺は全身サイボーグだからな。俺に言わせればあんたが生きている方が不思議に思えるな。ま、ガスで眠っていておおかた死体か何かと勘違いされたのだろうな」


 ミレアはザカリアスの状況説明をいまいちど頭のなかで分析する。一通りの概況は理解できた。しかし問題はこれからの行動である。地上出入口は封鎖。通信回路は閉鎖。現実的な解決法を考えれば地上からの救援が到着するのを静かに待つのがベストだ。


 しかし救援の見込みは本当にあるのだろうか?


「ザカリアスさん…」ミレアは身近な問題から解決することにした。「…よろしければ手錠を外してくださらない?」

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