第43話 機動歩兵の説明係は栄誉ある任務?

 会場警備のために派遣された憲兵が目前を通り過ぎる度にジュリエットは複雑な気分にさせられた。


「それにしても…リアルな夢だったな」


 体の数カ所をレーザーによって貫かれた錯覚からいまだ抜けきれずにいる。


 気をとりなおして展示会場の機動歩兵を見上げると、開場早々に入場してきた親子連れの民間人が足場を昇って、機動歩兵のコクピットに移動していた。


 全長約5メートル程のこの兵器は軍用アンドロイドの実用化に伴って主力兵器の座から転がり落ちたものの、暴走アンドロイドの鎮圧といった特殊な状況を想定してかろうじて現役の座を守り通すことができていた。


 ジュリエットが人工冬眠に入る直前の時代は機動歩兵が陸戦兵器の花形であった。


 しかし人脳サイズの高性能AIの実用化と関節駆動・制御ソフト技術等の躍進によって、人間への犠牲が最小限に留まる軍用アンドロイドが戦闘の主体へと移行することになる。


 よって軍の人事も機動歩兵職種の軍人よりはアンドロイド職種の軍人の方が自然と優遇されていた。


 お子様に人気のある機動歩兵のパイロットをしていたところで現実は「アンドロイドがダメだった場合の予備」程度にしか認識されていない。


 時代は変わった。


 しかしそうは思っていない連中もいる。


 もちろん機動歩兵のパイロットがその筆頭であるのはいうまでもないが、機動歩兵を主体にしたアニメ番組に夢をいだくお子様と、その精神年齢のまま体だけが大人になったマニア連中だ。


 基地祭になるとそういった連中が大挙して押し寄せてくることになる。むろんラザフォードは特殊な閉鎖都市なので住民人口がそれほど存在していないことから、変わり者がやって来る確率というのは他の基地祭よりもことさら低い。


 子連れだけで勘弁して欲しいと思いつつ、ジュリエットは誰も質問してこないことを祈りながら、栄誉ある説明係としてその場で待機した。

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