第35話 大使はミレアの本性を見抜いていた

「王女殿下、ここでお別れです。最後までお見送りできないのが残念でなりません」


 C検問所(チェックポイント・チャーリー)はラザフォードの住人が個人目的(主に観光)で使用するためのゲートで、このエリアの電磁シールド・コントロールに関しては憲兵隊の指揮下にある。


 準備されているエアラフト脇には護衛の為の警護班員が待機していた。


「ジャファル殿の哲学は興味深い…またジャファル殿と話がしてみたい」


 職務上エルフの王女様が退去するのを見届ける必要があったミレアとノエルはC検問所にて立会しており、高等弁務官は誰にも聞こえぬほどの小声で「もう来ないで」と呟いていた。


「できますとも」二人は熱い握手を交わした。「お父上によろしくお伝えください」


 後部座席にサミーラが乗り込むのを見届けたジャファルは高等弁務官脇まで退くと「プリメシア政府に領空通行許可はとっているので問題はないよ」と告げた。


 まるで何も聞こえなかったかのように知らんふりをしているミレアに大使は「あまり妙な気は起こさぬように。『事故』はよくありえることだからね」と小声で忠告した。


「私がそこまで卑怯な人間だとお考えなのですか?」


 低く抑制の効いた声であったが、我慢も限界だといわんばかりの凄みが込められていた。


 飛び立つエアラフトを見送る大使と高等弁務官はその心の中で互いに人物評価を改定していた。ラザフォードの二巨頭の間に決定的な亀裂が生じるのを端から観察していたノエルは、背筋に薄ら寒いものが走るのを感じざるえなかった。

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