第33話 民主主義は愚かな制度?

「王女殿下、地球連合が民主的な国家であることをご理解ください。すべての政治行為には市民の合意が必要なのです。エルシオンには無縁な制度かもしれませんが」


「民主主義というものはプリメシアに来て初めて耳にした。機械の世界にもある制度だと聞いている。まつりごとを知らぬ平民が入札で政治を決定する愚かな制度だ。政道のイロハを知らぬ者どもが自己主張を初めれば国は混乱するだけだ」


 王女様の反応にジャファルは不思議と笑い出したい気分になった。しかし実際に笑い出せば王女は自分が侮辱されたと思うだろう。


 ジャファルがテーブルの中央にエルシオンの地図を拡大立体画像で投射してみせると、驚いたサミーラの手がピタリと止まった。


「王女殿下、我々にはエルシオンに関する情報が乏しい。その理由は先程申し上げたとおりです。ゆえに機械圏から入手する情報によって我々はエルシオンを分析しています」エルシオンの一角に国境を示す白い線が引かれる。「御国のイリシアはこちらですね?」


「そうだ。それが私の故郷だ」


 エルシオンの統一を主張するにはあまりにも心もとない小国。それは衰退したエルフの地位を如実に示すものでもある。


 他人の力に縋ろうとするも無理はない。


「王女殿下、失礼ながら確認申し上げたいことが御座います。今回の同盟交渉はイリシアの国家としての意思、もしくは国家元首たる国王の意思でなされているのですか?」


「それは…」狼狽えたサミーラはつい本当のことを口にしてしまう。「…私個人の意志だ。しかし必ずや父上を説得してみせる」


 念のためと思い軽く確認した質問が「瓢箪から駒」になってしまった。驚いたのはジャファルも同様で、これでは正式な外交交渉が成立しない。


 大使はグラスのワインを飲み干した。


「今回は予備交渉ということでよろしいでしょうか。私は今回の会談が無駄だとは考えておりません。ラザフォード内でエルシオン人と話し合う…これは画期的な出来事なのですから」


「父上の同意をとりつけるには一度イリシアにもどらなくてはならない。私が再度プリメシアに来るまで待っていただけるだろうか?」


 まるでお小遣いをおねだりするような上目づかいでサミーラは懇願した。


「もちろんですとも、王女殿下。可能ならば外交権限の委任を受けた人物をプリメシアに常駐させた方がよろしいでしょうな」

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